『神曲』はイタリア・ルネサンスの文豪ダンテの代表的な抒情詩である。ルネサンス文学の古典的名作として知られる。この記事では、あらすじを紹介する(結末までのネタバレあり)。
『神曲』(Divina Commedia)のあらすじ
1300年の聖金曜日の夜、35歳のダンテは暗い森で道に迷っているのに気づく。なぜここにいるのかも判然としない。暗い森におり、そこから大きな丘がみえる。ダンテは丘を登ろうとするが、 ヒョウ、ライオン、雌オオカミに邪魔される。
ダンテは仕方なく暗い森に戻る。そこで、古代ローマの著名な詩人ウェルギリウスに出会う。
ダンテはウェルギリウスの詩を敬愛していた。ダンテは上述の獣について彼に語る。ウェルギリウスは丘を登るにはそれゆえ別の道を通らなければならないという。案内しようとダンテに申し出る。そこで、二人は丘を登る旅を始める。
ルートとしては、まず地獄を通り、煉獄を通過し、最後に天国に至ることになる。『神曲』はこれら三箇所に応じて、地獄篇、煉獄篇、天獄編に分かれている。なお、地獄篇が最も有名であるので、このあらすじでは地獄篇を主に扱う。
ダンテたちは地獄の入口に近づく。地獄という死後の世界をみて、ダンテは恐怖で足がすくむ。地獄を生きて通過できそうにないと感じたのだ。
ウェルギリウスはダンテを激励する。その際に、なぜ自身がダンテの案内役をしにやってきたのかを説明する。ダンテが道に迷ったのを、天国にいる聖ルチアらが発見した。この窮状をベアトリーチェに伝えた。
ベアトリーチェはダンテの亡き恋人である。ベアトリーチェがウェルギリウスにダンテを助けてくれるよう涙を流して懇願した。そこで、ウェルギリウスはわざわざ地獄の入口までやってきたのである。
ダンテは、最愛のベアトリーチェが天国におり、自分のことをとても心配してくれているのを嬉しく思う。 ベアトリーチェとウェルギリウスの助けに感謝し、地獄の旅を決心する。いざ、ダンテはウェルギリウスとともに、地獄の門を入っていく。
地獄は9つの円で構成されている。表面から奥へ移動するごとに、その罪と罰は重くなる。二人はアケロン川をわたり、第一の円に入っていく。
ウェルギリウスはこの第一の円の住人である。そこには、古代ギリシャやローマの著名な詩人たちが住んでいる。ホメロスやオウィディウス、ホラティウスなどである。ダンテは彼らの中で自分が六位だと考えた。さらに、哲学者たちが住んでいる城もある。ダンテとウェルギリウスは彼らと会話した後、ここを通過する。
次に、ダンテとウェルギリウスは地獄の第二の円に移動する。ここでは、地獄にやってきた罪人たちが怪物ミノスによって裁かれ、それぞれの罪に応じてしかるべき円に送られる。
ダンテとウェルギリウスは地獄の第三の円に移動する。ここには、大食漢の罪人たちが泥沼に浸かっている。怪物のケルベロスが番人をしている。第四そして第五の円をも通過していく。
第一から第五までの円は、自制心の欠如のような比較的軽い罪のエリアである。
ダンテたちは地獄の第六の円に入っていく。まず、墓が燃えているのを見る。ここは異端者たちが住むエリアである。
そこでは、ダンテはかつての敵だったフィレンツェ人らと出会う。
そこから、ダンテたちは深い谷を下り始める。地球の中心へと降下し始めているのだ。地獄の第七の円に入る。沸騰する血の川にたどりつく。ここは戦争を行う者や暴君らが住んでいる。ミノタウロスが番人である。
第七の円の別のエリアに移動する。そこでは、自殺した者たちが住む。キリスト教の考えでは、自殺は重大な罪だと考えられてきた。そのため、第七の円に属する。
同円の次のエリアでは、冒涜者や高利貸し、獣姦などの罪人が住んでいる。ここは砂漠である。しかも、燃える雪が降り注ぐ地である。
ダンテたちは第八の円に入る。この円も複数のエリアに分かれている。彼らがまず目にしたのは誘惑者などの罪人であり、彼らは永遠に鞭打たれている。次に、おべっか使いたちのエリアに移る。そこは糞尿で満たされた場所だった。
次に、聖職売買を行う者のエリアである。聖職売買とは、司教などの教会の役職を売買するということである。この箇所はダンテの生涯との関係でも興味深いので、少し詳細にみてみよう。
聖職売買の罪人たちは足の裏に火をつけられた状態で、穴に逆さまに吊るされている。ここでは、ダンテは教皇ニコラス3世をみかけ、話しかける。ニコラス3世は当時からすでに、自身の親族のために教会の重要な役職を独占的に確保し、与えていたことで批判されていた人物である。
ニコラス3世は穴につるされているので、ダンテに話しかけられたのだとはわからなかった。最初、教皇ボニファティウス8世に話しかけられていると勘違いした。ダンテはこの誤解を解く。
ボニファティウス8世は中世の教皇至上主義の代表的な教皇の一人として知られる。それのみならず、フィレンツェの政治家だったダンテの天敵でもあった人物である。よって、ダンテが『神曲』でボニファティウスを地獄の第八円の第三層に置いたことは有名である。
ダンテらは次のエリアに移動する。そこでは、占い師らが住んでいる。その次には、詐欺師たちが切りつけられている。次には、偽善者たちが壮麗な衣服をきて、際限なく歩き回っている。よくみると、それは金銀ではなく、ただの鉛で飾った衣服である。
次に、盗賊たちのエリアである。盗賊たちは手を切り落とされる。ヘビに噛まれ、あるいは自身がヘビになって噛んでいる。
次のエリアでは、ギリシャ神話の英雄オデュッセウスと会った。オデュッセウスはトロイ戦争で、有名なトロイの木馬の作戦を用いて、ギリシャに勝利をもたらした将軍として知られていた。だが、邪悪な顧問という罪人の一人として、このエリアに属していた。トロイの木馬という騙し討ちの作戦の評価ゆえだろう。
次に、ダンテらは扇動者たちのエリアに移動する。無数の切り傷を負った罪人たちが歩き続けている。その傷は治りかけるが、すぐにまた開いてしまう。それを永遠に繰り返す。
次のエリアでは、偽造者たちをみる。彼らは疫病で苦しんでいる。
ダンテたちはいよいよ地獄の第九の円に入る。そこはコキュートスである。凍った湖のような場所である。ここも複数のエリアで構成される。罪人たちは首や頭あたりまで、氷で凍っている。
この円は主に裏切り者たちの住む場所である。
第九の円の最後のエリアでは、罪人は完全に氷で覆われている。彼らは主君への裏切り者である。その中でも特に、三人が注目される。キリストを裏切ったユダと、ユリウス・カエサルを裏切ったブルートゥスおよびカッシウスである。ブルートゥスは「ブルートゥスよ、おまえもか」というカエサルの言葉で有名である。カエサルを暗殺した人物の一人である。
ブルートゥスはは、古代の共和政ローマを独裁者カエサルから守ろうとした共和主義者として称賛されることもある。だが、ダンテの時代にはそうでなかったことが、ここからみてとれる。カエサルという主君の裏切り者として、地獄の最後の階層に位置づけられていた。すなわち、地獄の一番奥深くに、ユダと同列に扱われていたのである。
いよいよ、ダンテたちは地獄を通り抜けた。ここからは煉獄に入る。地上の旅となる。
煉獄へ
ダンテとウェルギリウスは煉獄に入った。そもそも、煉獄は中世キリスト教会で生み出された。天国と地獄の間にあり、天国に行くべき死者が、天国に行くまでに一時的に滞在する場所である。
罪人として様々な責め苦を受ける場である。生者が彼ら死んだ罪人のために慈善活動などをすることによって、煉獄にいる罪人は煉獄の滞在期間を短縮できるといわれていた。
煉獄には、7つの大罪に由来する7つのエリアがある。7つの大罪はキリスト教において、あらゆる罪の根源と考えられた罪である。具体的には、傲慢、貪欲、色欲、貪食、憤怒、怠惰、嫉妬である。
煉獄は天国への通り道である。ここを通過するには、天国に値する人物にならなければならない。そのため、ダンテ自身もまた、煉獄において自らの罪に立ち向かうことになる。
天国へ
ダンテはいよいよ天国に入る。ここまで案内役だったウェルギリウスは、天国に行くのを拒み、煉獄でダンテと別れる。天国では、最愛のベアトリーチェがダンテを道案内する。
天国は9つのエリアで構成されている。最初の7つは、古典古代の4つの枢要徳とキリスト教の三つの神学的徳(信仰、希望、愛)に対応している。 8番目は天使のエリアである。最後は神のエリアである。
ダンテはこの天国において、キリスト教の使徒ペテロや、中世キリスト教の代表的な神学者アクィナスらと出会う。天国の各エリアを通り抜け、浄化されていき、最後に神の場にたどり着く。
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