『1984』はイギリスの小説家ジョージ・オーウェルの代表的な小説である。1949年に公刊された。当時は第二次世界大戦が終わった後、アメリカとソ連の冷戦が厳しくなってきた時期である。オーウェルは第二次大戦中からナチスなどの全体主義国家に批判的だった。その姿勢を冷戦下のこの作品でさらに発展させる。
よって、この作品は風刺小説である。いわゆるディストピア小説の代表的作品であり、古典的名作である。ディストピアはユートピア(理想郷)の反対である。
この記事では、あらすじを紹介する。
『1984』のあらすじ
舞台は1984年の世界である。本書の執筆時点より35年後の未来である。世界はオセアニアとユーラシアそしてイースタシアという 3 つの超大国に分かれている。これらが戦争を繰り広げている。
主人公のウィンストン・スミスはオセアニア国の国民である。この国は一つの党が独裁的に支配している。党の中枢メンバーは総人口の2%ほどである。贅沢な暮らしをする権力者たちである。
党のトップはビッグブラザーであり、独裁者として君臨している。党の下級メンバーは総人口の13%ほどである。党の独裁体制を支えるために働いているが、貧しい。残りの85%の人々はプロレタリアである。
国民はすべて政府の監視を受け、統制されている。たとえば、愛省という省庁が思想統制を実行する。自由な思想や個性の表現、性愛などを禁止している。テレスクリーンと呼ばれる監視カメラのようなものがあらゆる場所に設置されている。国民は仕事場だけでなく自室やトイレの個室でも、これによって常に監視されている。
党は思想統制がしやすいように、「ニュースピーク」という新しい言語をつくりだし、国民に使用させている。さらに、真理省が歴史的事実を含むあらゆる情報を党の都合の良いように書き換えたり消し去ったりしている。
オセアニアの国民は独裁者のブラザーフットへの忠誠と愛を強いられている。定期的に憎悪集会が開催され、国民の愛国心を高めるのに利用されている。さらに、敵国の戦争捕虜の公開処刑が一種のショーとして行われる。
この公開処刑により、国民の戦意を発揚し、国民を鼓舞し、戦争を主導する党への支持を強める。よって、戦争そのものが党の独裁体制を維持する手段として利用されている。
主人公のウィンストンは党の下級メンバーである。真理省に勤務し、日々、歴史的記録を党の都合のよいように書き換えている。だが、ウィンストン自身は党のこのような厳しい統制と弾圧に反感を抱いている。
ウィンストンは個人的な日記をつけている。これはこの国では死刑に値する行為だと考えられている。ウィンストンはそれでも、ひそかに、日記をつける。いずれバレてしまうだろうと思いながらも、テレスクリーンでバレないよう注意して日記を書く。
オセアニア国には、党の敵対組織ブラザーフッドが存在するとウィンストンは考えている。党の上級メンバーには、オブライアンがいる。ウィンストンはオブライアンがブラザーフッドの秘密メンバーだろうと思っている。
ある日、ウィンストンは同僚の黒髪の少女ジュリアから、「愛している」と書かれたメモを受け取る。上述のように、性愛は禁止されている。ウィンストンはジュリアが思想警察のスパイではないかと疑い、警戒する。だが、ウィンストンは思い切って、ジュリアとの関係を始める。
二人は監視の目を回避しようとして、田舎で会う。ウィンストンが日記を買った古物商の上にある部屋で定期的に会うようになる。ウィンストンはその店の主人チャーリントンを信用しているためだ。ウィンストンとジュリアの関係は深まっていく。二人の愛はどんな状況をも乗り越えられると信じるようになる。性愛を禁じる党への反感も強まっていく。
ある日、ウィンストンはオブライエンに会う。オブライエンはウィンストンに、党への考えを質問する。ウィンストンが党に憎しみを抱いていることを確認する。そこで、オブライエンは党の敵対組織ブラザーフッドに入るようウィンストンに打診する。
そのためには、ブラザーフッドの亡命中のリーダーのエマニュエル・ゴールドスタインが書いたとされる本を詠む必要があるという。ゴールドスタインはもともとは党の指導者だったが、党の方針に反発して離脱し、敵対するようになったといわれている。
ウィンストンは本を例の部屋でジュリアと読む。ウィンストンはこの部屋が安全だと思っていた。だが、部屋の奥にテレスクリーンが隠されていることに気づく。もはや手遅れである。兵士たちが部屋に押し入り、二人を取り押さえ、連行する。 店の主人チャリントンは思想警察のメンバーであり、彼らをずっと監視していたのだった。
気がつくと、ウィンストンは一人で愛の省の奥深くにいた。窓のない部屋で、何日も閉じ込められる。そこに、オブライエンがやってくる。ウィンストンはオブライエンも捕まったと思った。
だが、オブライエンはウィンストンの拷問を開始する。オブライエンはそもそもブラザーフッドの秘密メンバーではなく、党の忠実な上級メンバーでしかなかった。ウィンストンはそのことにようやく気づく。数年間にわたり、オブライエンはウィンストンの問題行動を察知し、監視してきたのだ。
ウィンストンの拷問と洗脳が本格化する。たとえば、オブライエンはウィンストンに、「2 + 2 = 4」を「2 + 2 = 5」だと信じ込ませようとする。さらに、ジュリアへの愛を否定させようともする。だが、ウィンストンは抵抗し続ける。
ついに、ウィンストンは愛省の最も恐ろしい101号室に連れて行かれる。そこでは、最も恐ろしいことを行うとオブライエンはいう。ウィンストンの場合、最も恐ろしいのはネズミだった。
そこで、オブライエンは金網のマスクをウィンストンの頭にかぶせ、その中にネズミを放つ。ウィンストンの精神が壊れていく。ついには、「ジュリアにやれ」と叫ぶ。ジュリアへの愛も失われたのだ。
洗脳が完了し、ウィンストンは釈放される。ジュリアも釈放された。ウィンストンはジュリアと会ったが、なにも感じなくなっていた。ウィンストンはもはや別人となっていた。党の指導者ビッグブラザーの肖像画を眺め、愛を捧げるようになっていた。