ウェルギリウスの『アエネイス』は古代ローマの黄金時代の代表作である。世界文学の傑作の一つとしても名高い。この記事では、本書の背景や内容、読むべき理由を説明する。
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ウェルギリウスの『アエネイス』とは
著者はどんな人?
ウェルギリウスは紀元前70年のイタリア北部のマントヴァ付近で農家に生まれた。若い頃に哲学や修辞学を学んだが、詩に熱中し、詩人を目指すようになる。
この時代、古代ローマは内戦に明け暮れていた。有名なカエサルやポンペイウスらの三頭政治の後、カエサルはブルートゥスらによって暗殺された。
この混沌の中で、ウェルギリウスは代表作の一つ『牧歌』を公刊した。これは、当時の混沌とした世を治める救世主の誕生を主題の一つとしている。
ウェルギリウスは詩人として名声を高めていく。その際に、古代ローマの初代皇帝となるアウグストゥスのグループと交流をもつようになる。
紀元前29年、アウグストゥスによって、古代ローマの内乱は終止符を打たれた。アウグストゥスは荒廃したローマを復興させ、再生させていった。そこから200年間ほど、いわゆる「ローマの平和」が享受されることになる。
ウェルギリウスの『アエネイス』はまさにこのような背景で制作されていく。
本書はどんな本?
『アエネイス』は古代ギリシャの文学や神話とローマの歴史や神話を、ウェルギリウス独自の仕方で結びつけた叙事詩である。特に、古代ギリシャを代表する詩人ホメロスの『イリアス』や『オデュッセイア』の影響がみられる。
『アエネイス』は、トロイ戦争の終結から始まる。この戦争で、ギリシャ人とトロイ人が10年間にわたって戦い、ギリシャ人が勝利した。主人公のアエネイスはトロイの英雄の一人である。
この戦争により、トロイは滅亡した。トロイの神々はアエネイスにたいして、親族や部下を引き連れて、イタリアに向かうよう告げる。その新たな地において、トロイ人の末裔の栄光が待っている、と。
そのため、アエネイスは滅びゆく祖国を離れ去り、イタリアに向かう。道中は困難の連続だった。アフリカ北部のカルタゴでは、王女のディドと愛しあうが、これは悲恋となる。
その後、『オデュッセイア』のように、アエネイスは黄泉の国にくだるなどして、どうにかイタリアにたどりつく。
アエネイスはイタリアの支配者の娘と結婚の話が進む。だが、イタリアで新しい国をつくるのは、簡単ではなかった。そこで待ち構える困難とは・・・。
本書から、なにが得られる?
古代ローマ文学の最高峰、世界文学としても最高峰の作品を味わえる
『アエネイス』は古代ローマの時代に高い評価をえた。中世やルネサンスには、イギリスのチョーサーやイタリアのダンテから絶賛された。ダンテの『神曲』には直接的に大きな影響を与えた。
ルネサンスの時代には古代ローマ文学の代表作として認知されていた。ウェルギリウスは古代ローマの黄金時代の代表的な詩人だと評価された。15世紀後半の活版印刷術の誕生の際には、本書は代表的な古典書としてまもなく印刷された。すなわち、しっかりと売れる本でもあった。
その影響力として、たとえば、 『アエネイス』にみられたような3つの要素、すなわち戦争と帰還そして創建はイタリアの冒険詩の主要なテーマとなった。
その後も、本書はシェイクスピアなどに称賛された。本書はこのように古代から不朽の名作として知られてきた。
現代においても、本書は世界各地で読まれ続けている。
海外の数多のレビューサイトを見る限りでは、本書は愛と悲劇、美しく魅惑的な詩、壮大で夢中にさせる物語、映画のようなスペクタクルといった評価が散見される。
現代の読者の中には、そもそも古典古代に興味がない人もいる。そのような読者がたまたま本書を2000年前の作品と知らずに読むこともある。
そのような場合には、本書は現代人の作家によるものと勘違いされることもある。本書は古代テイストの物語やファンタジー小説の一環とみなされることもある。本書の第二巻が出るのが待ち遠しいほど(!)、純粋に楽しめたとも評される。現代の一般読者にとってもそれほど魅力的な物語を愉しむことができる。
古代ローマの歴史のより深い理解を得られる
上述のように、『アエネイス』は古代ローマが初代皇帝アウグストゥスによって再建されていく時代に制作された。これは偶然ではなかった。
むしろ、カエサル以降のローマの内乱の後、アウグストゥスはこれを終わらせた後に、本書の制作をウェルギリウスに依頼していた。
アウグストゥスの狙いは、自身の新体制を安定させることだった。アウグストゥスは内乱を一通り鎮圧した。だが、復讐の連鎖が続く恐れもあった。このままでは、つかの間の平和で終わってしまう。
そこで、アウグストゥスは対立するすべてのグループが自身の新体制に忠誠を誓うようにしたかった。そのために、新体制のすばらしいイメージを構築し、広めようとした。
『アエネイス』はその手段の一つという側面をもった。アエネイスはローマという都市を、さらにはローマ文明をも築いたという物語である。本書は再興から繁栄、そして黄金時代へ向かうローマの功績と理想を描きあげたものとして認知されている。
同時に、本書には、当時のローマ帝国への批判的態度を示す部分もある。本書はローマ共和国からローマ帝国への生まれ変わりを文学の視点から知るための優れた手段となる。
ちなみに、本書には質の悪い翻訳書も出回っているので、注意が必要である。
おすすめ参考文献
逸身喜一郎『ラテン文学を読む : ウェルギリウスとホラーティウス』岩波書店, 2011
Alison Keith, Virgil, Bloomsbury Academic, 2020
Fiachra Mac Góráin(ed.), The Cambridge companion to Virgil, Cambridge University Press, 2019
https://www.babelio.com/livres/Virgile-Lneide/21808/critiques?a=a¬e=5&pageN=2