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古代ギリシャ哲学・思想の古典書のおすすめ

 古代ギリシャ思想は西洋思想の基礎をなしている。そのため、西洋思想を理解するうえで、避けては通れないほど重要である。西洋思想を通して、近現代の日本思想などにも一定の影響を与えているので、その点でも重要だ。
 この記事では、そのなかでも特に読むべき本を大学生や社会人向けに2つ紹介する。その内容や、それを読むことで得られるものを説明する。後者にできるだけ重点を置いている。この点で、この記事はほかのウェブ記事と異なる。

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プラトンの『国家』

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『国家』はどのような本?

 プラトンは古代ギリシャの代表的な哲学者の一人である。それだけでなく、西洋哲学全体において、代表者の一人として知られている。
 『国家』はプラトンの代表作の一つとして知られる。人間や国家の正しさを主題としている。国家にとって、人間の魂にとって、正しいとはどのようなことなのか。この問いをめぐって、古代ギリシャの哲人たちが論じ合う対話篇である。 

本書から、なにが得られる?

西洋哲学の基礎的な理解が得られる

 上述のように、プラトンは西洋哲学の代表的な人物の一人である。弟子のアリストテレスとともに、古代ギリシャの主要な哲学者として知られる。史料というかたちで残るものとしては、古代ギリシャは西洋文明の最初期にあたる。
 西洋哲学・思想はしばしば、ヘレニズムとヘブライズムをニ本柱にしていると評されてきた。ヘレニズムは主に古代ギリシャと古代ローマの思想や文化であり、ヘブライズムはユダヤ教とキリスト教である。
 古代ローマは古代ギリシャから大きな影響を受けていたので、古代ギリシャはヘレニズムの中核であるといえる。
 よって、その影響力は古代ローマや中世ヨーロッパ、近世、近代、そして現代へと波及していった。プラトンはこのような根源的な時代の哲学の代表者である。『国家』はプラトンの主著である。
 したがって、本書は西洋哲学の古典の中でも第一級の著作といえる。本書を通して、西洋哲学の根源を理解することができる。

近現代の哲学や思想の基礎知識を得られる

 本書はヘーゲルなどの近現代の西洋哲学でもしばしば参照されている。20世紀には、科学哲学で有名なカール・ポパーが当時の全体主義を批判するさいに、本書を標的としたのが有名であろう。
 その解釈がどの程度妥当かを置いておくとしても、本書は過去の遺物ではなく、現代においても現代的テーマを考察する際に一定の重要性を保ち続けていることがみてとれる。
 本書はしばしば近現代の哲学の前提知識となっている。よって、本書をあらかじめ読んでおくことで、近現代の哲学をしっかりと理解できるようになる。逆に、読んでおかないと、理解がおぼつかなかったり、誤読してしまうことにもなってしまう。

近現代の日本をより深く理解できる

 明治時代以降の日本でも、本書は重要だった。明治維新によって、旧来の体制が倒れ、新しい国の形が模索された。そのような中で、様々な西洋の文献が翻訳され、読まれた。その中に、本書も含まれていた。
 たとえば、大隈重信のような有名な政治家もこれを読み、日本の行く末を考えた。大正デモクラシーの頃には、選挙で哲人政治がモットーとして利用されることにもなった。そのため、本書は近現代の日本を理解するうえでも、一定の光を投げかけてくれるものである。

大人の教養がえられる

 本書は日本だけでなく世界的にも古典書として名高い。様々な大学で基本書の一つとして推薦される本である。大学院に進んで学問を深める人たちだけでなく、大学を卒業してそのまま就職する社会人にも広く読まれてきた。
 よって、本書の内容は社会人の一般的な教養の一部をなしている。特に、哲人王政治や太陽の比喩、イデア論などは有名である。これらについて一度は耳にしたことがあるという人も多いだろう。
 だが、有名な分だけ、誤解されることも少なからずある。そのため、原著でしっかり確かめておくべきものといえる。

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プラトンの『ソクラテスの弁明』

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どんな本?

 『ソクラテスの弁明』は、若い頃のプラトンが師匠のソクラテスが死ぬまでの過程を描いた作品である。

背景

 紀元前399年、ソクラテスがアテネの裁判所に訴えられた。ソクラテスの罪状は、アテネの神々を信奉せず、若者に悪い影響を与えたというものだ。
 この裁判では、ソクラテスは三度、弁論を行った。最初の弁論を行った後、陪審員による話し合いの結果、有罪が宣告された。ソクラテスは再び弁論を行った。だが、毒殺という刑罰が確定した。最後に、ソクラテスは再び弁論を行う。
 それらの弁論において、ソクラテスの哲学の重要な議論が展開されている。本書はソクラテスが一人称で弁論を行うという体裁をとっている。だが、これはソクラテスの実際の証言をメモして公刊したものではない。
 裁判を見学していたプラトンがその内容をまとめつつ、おそらく独自の内容を付け加えたものである。よって、ソクラテスの哲学とプラトンの考えがそこではみられる。

内容

 ここでは、内容の一部だけを紹介しよう。
 ソクラテスの哲学で有名な「無知の知」は本書にみられる。人は大人になるほど、自分がいろいろ知っていると思う傾向にある。だが、ソクラテスは自分がほとんど何も知らないと認識した。何も知らないことを知っているというというのが無知の知である。
 ソクラテスはこの無知の知をアテネの街頭で実践した。ちまたで「賢者」と評判の人たちに様々な問いを投げかけ、それに答えてもらった。その対話の中で、「賢者」たちが実は物事についてよく知らないということが露見してくる。
 ソクラテスは彼ら「賢者」たちの「知ったつもり」の状態が実は無知な状態だと示した。これがアテネの若者の称賛をえた。だが、多くの人の怒りをかい、裁判に訴えられたのだった、
 「無知の知」という特殊な知恵は「汝自身を知れ」というモットーにつながる。特に自身については知ってるつもりになりがちだ。だが、知っているつもりで終わるのではなく、実は知らないということに気づき、知ろうとせよ、と。汝自身を知り、その生き方を吟味することが求められる。
 本書には、ソクラテスにまつわる有名な逸話もみられる。たとえば、自身を都市国家アテネという怠けた馬を刺すアブにたとえている。 ソクラテスがアテネという馬の周りをうるさく飛び周り、時として刺す。

 そうしなければ、この怠けた馬は眠りこけてしまう。だが、アブがそのようにすれば、アテネは怠けずに本来の優れた行動をするだろう、と。
 このように、ソクラテスは上述の行いがアテネにとって有害ではなく、むしろ有益だったと弁明している。
 本書はこのようなソクラテス自身の行いの弁明を通して、ソクラテスとプラトンの哲学が展開されている。短い本であるので、初学者にしばしば推奨される。

本書から、なにが得られる?

プラトンやソクラテスの哲学の有名な部分を知ることができる

 本書はプラトン哲学の重要なエッセンスを示すものとして知られる。プラトンは数多くの著作を公刊したが、その中でも代表作の一つとして知られる。世界的に重要性を認められた本である。
 本書は吟味された生活を目指す哲学者像を人間としての人生に求めている。吟味や人生のあり方はプラトンやソクラテスの哲学の中心的な問題である。本書を通して、そのような問題に取り組むことができる。

大人の教養をえることができる

 上記の点に関連して、本書は社会人の一般的な教養の一部にもなっているといえる。特に、ソクラテスの「無知の知」にかんして、本書は重要である。
 「無知の知」を聞いたことがあるけれど、よく知らないという。そういう読者にまさに適した本である。短くて読みやすいという意味でも、適している。

西洋の哲学あるいは文化の理解が深まる

 本書はソクラテスのイメージの形成と世界中での普及に大きく寄与した。プラトン以降、ソクラテスは哲学者の模範として描かれるようになった。
 そのような人物として世界中で知られるようになっていった。そのため、本書は哲学者のイメージの形成にも大きな影響を持った。

 たとえば、上述のアブというイメージだ。当時のアテネでは、ソクラテスによって、賢者を自認する人たちが実は賢者とはいえないような状態にあることを暴かれた。
 暴かれた人やその利害関係者は特にこの行動を不快に思っただろう。だが、ソクラテスはそれがアテネの社会のためになると考え、実践しつづけた。
 たとえ社会の大半の人たちにとって不快で不都合だと思われるようなことであっても、社会のためになるなら、そのような真実を率直に話す。社会の現状に不人気でも疑問を投げかける。このような役割が哲学者の役割だと考えられるようになっていった。

 ソクラテスはこのような哲学者として振る舞った。その結果、アテネの公式の裁判によって死刑となった。このため、哲学者は命をかけてでも真理や社会の本当の善のために闘う人物だというイメージも定着していった。

毒を仰いで自ら死ぬソクラテス

 これがさらに拡大解釈され、ソクラテスは抑圧的な体制にたいして真理や自由のために闘う人物の象徴ともみなされていく。純粋な哲学の領域を超えて、圧政への抵抗という政治的な領域にも進出していった。これは現代社会にも深く関係する哲学者のイメージである。
 このように、本書を通して、西洋文化への理解を深めることができる。

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おすすめ参考文献

プラトン『ソクラテスの弁明』納富 信留訳, 光文社, 2012

納富信留『プラトンが語る正義と国家』ビジネス社, 2024

 著者の納富信留氏は日本で古代ギリシャ哲学の研究を長年牽引してきた専門家である。プラトンの研究でも世界的に功績を認められ、国際プラトン学会の会長をつとめたこともある。本書はそのような日本を代表するプラトンのベテラン専門家による著作である。

 本書は一般向けに書かれた本である。『国家』の読解に特化したものであり、2024年の最である。『国家』のみならず、古典的著作を読むのに適した入門書として、これほど一般向けにおすすめしやすい本もなかなかない。

 特定の古典書に特化した入門書であり、近年書かれたものであり、世界的に認められた第一級のベテランの専門家によるものだからである。『国家』の入門書としては、まず第一に本書をおすすめする。

納富信留『プラトン理想国の現在』筑摩書房, 2023

 本書も同一の著者による近年の作品。ちくま学芸文庫に属するので、一般向けでもあり、価格もお手頃だ。
 本書では、明治時代以降の日本において、『国家』がどのように影響を与えてきたかを知ることができる。日本史にも興味がある人なら、ぜひとも知っておきたいところだ。
 そのうえで、本書が現在や未来にとってどのように役に立てるかが考察されている。古代ギリシャの専門家によって、2400年ほど前の古典が現代に活かされる一つの実例である。このような試みは珍しい方なので、貴重である。

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