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アウレリウスの『自省録』

 古代ローマの時代には、様々な哲学や思想が発展した。その中には、哲学的な思索を日常的な問題のために行うものもあった。そのような思索は時と場所を超えて、現代人の心に響いている。
 この記事では、現代の日本や海外で広く読まれている古代ローマの名著として、アウレリウスの『自省録』を紹介する。
 本書は特に、社会経験を積んで自分自身の人生を見つめ直したい社会人におすすめだ。もちろん、社会人になってから失敗したのでは遅いと考えている学生にもおすすめする。
 

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マルクス・アウレリウスの『自省録』とは

著者はどんな人?

 マルクス・アウレリウスは本の作者としては実に特徴的な人物である。121年に、古代ローマ帝国で生まれた。名家の出身であり、若い頃に優れた教育を受けた。
 その後、当時の皇帝に才能を見出され、政治の道に進む。執政官という重要なポストを任されて活躍した。161年には、ローマの皇帝となり、180年に亡くなるまで皇帝としてローマ帝国を統治した。
 アウレリウスが活躍した時代は、カエサルやアウグストゥスよりも後である。キケロやセネカのような哲学者が活躍した時代よりも後であり、暴君ネロよりも少し後である。
 アウレリウスの時代、ローマ帝国は強大な勢力を誇っていた。だが、ゲルマニアやイタリアなどでの戦争や反乱、ペストの大流行に苦しめられた時期でもあった。
 アウレリウスは皇帝として強大な権力をふるいながらも、思い通りにならない運命の荒波のなかでローマを導いていかなければならなかった。
 『自省録』はそのようなローマ皇帝が、自身の経験や知見をもとに、執筆したものである。

 『自省録』はどんな本?

 本書の目的は、彼自身の道徳的な向上を目指すことだった。あれほどの輝かしいキャリアと強大な権力をもっていたにもかかわらず、アウレリウスは自身が道徳的により優れた人物になろうと志していたのである。アウレリウスがローマの五賢帝の一人とされる所以である。
 本書において、アウレリウスは降りかかってくるどのような事態にも狼狽せずに対処できるよう、心の面で準備しようとした。その内容を少し紹介しよう。
 アウレリウスは不測の事態が人生には必ず起こるものだと考えていた。人生には、自分の力ではどうにもならないことが多いとも考えていた。だが、それらの事態が起こった時に、事態のさらなる悪化を回避できるかどうかは、自分自身にかかっているとも考えていた。
 そのためには、外部の出来事に過剰に反応しないことが重要である。それによって心を左右されないようにすること、自分の心を整えて保つことが重要である、と。

本書から、何が得られるか?

人生や運命の荒波にどう対処すべきかを考える思慮深いヒントを得られる

 このようにみてくれば明らかなように、本書からは、運命の向かい風にどう対処すべきかのヒントがえられる。しかも、素性の怪しい人物のつぶやきとは異なる。古代ローマの皇帝が実際に運命の荒波に直面する中で紡いだ言葉である。
 本書において、アウレリウスはたとえ厳しい運命に直面したとしても、動揺せず、逃げ出すことなく、臆することなく、その運命に立ち向かえるよう精神を鍛え上げようとする。
 そのためには、どうすればよいか。人間とは、世界とはどのようなものかを適切に理解することが求められる。心とはどのようなものであるか。
 どうしたら、不測の出来事にたいして、冷静に対処できるか。どうしたら、苛立たしく、避けたくもなる人間関係にたいしても、適切に対処できるか。
 それらの仕組みやとるべき対策をアウレリウスは具体的に論じている。たとえば、自制心や感情が着目される。「印象を消し去れ」や「むやみになにかをしようとするな」といった名言がうまれる。本書はまさに実践のための書である。
 執筆されたのは1900年ほど前であっても、本書は現代人の心に響いている。そのため、日本でもよく読まれているだけでなく、海外でも今日においてなおよく読まれている。
 10カ国以上の海外の口コミを見てまわった限りでは、本書は示唆的で役に立つというレビューが散見された。日本語に翻訳されるぐらいであるので、他の多くの言語にも翻訳されている。
 内容は現代的と評されることもある。不思議にも生き生きとしており、読者の血肉になってくれる。人生に嫌気が差してきた人には、自分を諦めないための本にもなるだろう。

高貴な人物の内的葛藤の物語を堪能できる

 本書は、いわば悟りに至った人物がそうでない一般大衆にたいして教えを説いた本ではない。アウレリウス自身もまた、本書のテーマで苦しみ悩んでいた。
 様々な哲学者の知恵や彼自身の経験を通して、それらの問題に立ち向かおうとした。本書はその内的葛藤の産物である。そこには、注目すべき人間のドラマがみてとれる。
 この点をより深く理解するために、彼の置かれた状況をより詳しくみてみよう。アウレリウスは執政官や皇帝をつとめるなど、他人がうらやむような成功をおさめていた。
 だが、同時に、戦争や反乱に苦しんだ。たとえば、帝国の東方地域を統治させるべくに派遣した部下が裏切り、自らが皇帝だと宣言して、大反乱を起こした。あるいは、イタリアで蛮族の侵入を抑え込むのにようやく成功したと思ったら、その後にペストがイタリアで大流行した(蛮族がペストをイタリアに持ち込む結果となった)。
 アウレリウスは強大なローマ帝国の皇帝であった。栄華と歓喜を味わった。だが、運命は彼の思い通りにはならなかった。誰もが苦悩して悲しんでしまうような事態に何度も直面した。
 だからこそ、次に同じような不測な事態が起こったときには、しっかりと対処できるよう、本書を自分自身のために執筆していった。
 よって、本書を通して、運命に翻弄されまいと必死にたたかう皇帝の内的葛藤の偉大な物語をみることができる。

 ちなみに、本書はアマゾンの聞く読書サービスのオーディブルでなら無料である。初月は無料で利用できるので、無料期間中に本書を聞いてキャンセルすれば、無料で愉しめる。キャンセルしない場合は、月額1500円のサブスクとなる。

参考文献

アウレリウス『自省録』神谷 美恵子訳, 岩波書店, 2007

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