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バルザックの『ゴリオ爺さん』

 『ゴリオ爺さん』は近代フランスの作家バルザックの代表的な小説である。フランス文学の古典的名著として知られる。この記事では、あらすじと意義を紹介する 。

あらすじ

 物語の主人公を二人挙げるとすれば、本書のタイトルのゴリオ爺さんと法学部の学生のウジェーヌ・ド・ラスティニャックである。本書は二人の娘を溺愛することで破滅するゴリオ爺さんと、パリで成功しようと画策する若者ラスティニャックを軸とした物語である。

 舞台設定

 1819年のパリのセーヌ川近くに、老朽化した下宿があった。そこに、ゴリオ爺さんとラスティニャックなどが住んでいた。この下宿が物語の主な舞台となる。
 ゴリオ爺さんはかつて商人として成功していた。アナスタシーとデルフィーヌという二人の美しい娘がいる。ゴリオは二人の娘を溺愛していた。貴族との結婚を成功させるために、ゴリオは大部分の財産を注ぎ込んだ。

 その結果、二人の娘は貴族と結婚でき、いまも夫婦生活を営んでいる。だが、ゴリオは著しく貧しくなり、この粗末な下宿に住むまでになってしまっている。
 ラスティニャックは南仏の貧しい貴族の出身である。パリで法学を学んでいる。いずれは弁護士となり、社交界に出て、上流階級で成功することを夢見ている。パリには親戚もいる。
 この下宿には、他にも住人がいる。孤児のタイユフェールや老人のミショノーなどである。その中でも、ヴォートランという40歳のたくましい男性が物語の途中で重要となる。

 ラスティニャックの社交界での野心

 ラスティニャックは大学で法律を学んでいた。当時のパリで成功するには、社交界でも成功しなければならない。そこで、彼は遠縁のボーセアン夫人を頼ることにした。
 ラスティニャックはボーセアン夫人の助けをえて、舞踏会に参加した。そこでは、アナスタシー・ド・レストー夫人に惹かれた。レストー夫人を訪ねた際に、ゴリオ夫人を見かける。ラスティニャックはレストー夫人との会話でゴリオ爺さんを話題にだした。すると、明らかに空気が険悪になり、彼はその場から追い出されてしまう。

 ラスティニャックは社交界で成功するために、ボーセアン夫人に助力を求める。そこで、上述のアナスタシー・ド・レストー夫人が実はゴリオ爺さんの娘だと知る。上述のように、ゴリオ爺さんは財産を使ってアナスタシートデルフィーヌを貴族と結婚させた。いまや二人の娘は貴族の身分となった。

 すると、商人である父親のことを恥ずかしく思うようになった。ゴリオの財産が尽きてくると、二人の娘たちの夫はゴリオと距離をとるようになった。二人の娘たちもまた、ゴリオに金の無心をする以外には、ゴリオから遠ざかるようになっていた。

 ボーセアン夫人はラスティニャックにたいし、パリで成功したければ、金持ちの若い女性の心をつかめと教える。その他にも、社交界での処世術を教え込んだ。
 
 社交界での交際には金がかかる。ラスティニャックの実家は貧しい貴族でしかない。彼は実家に、送れるだけの金を送るよう頼んだ。

 二人の若い女性との交際

 ラスティニャックの社会的野心は、下宿人にヴォートランにも知られていた。同時に、ラスティニャックが金に困っていることも。そこで、ヴォートランはラスティニャックに協力すると申し出る。その方法は、裕福な未婚女性のヴィクトリーヌとの結婚である。とはいえ、ヴォートランの方法は明らかに違法なものである。
 ヴィクトリーヌには兄がいる。その兄がいなくなれば、ヴィクトリーヌは巨額の遺産を手に入れられる。

 ヴォートランがその兄を暗殺する手配をするので、ラスティニャックがヴィクトリーヌと結婚したに、結婚持参金の一部をヴォートランに支払う。ヴォートランはこのような提案をラスティニャックに持ちかけた。ラスティニャックは恐れを感じながら、それに惹かれる面もありつつ、だがを拒否した。

 その後、ラスティニャックはボーセアン夫人によって、デルフィーヌを紹介される。ゴリオ爺さんの二人目の娘である。ゴリオは二人が親密になるのを喜び、それを後押しする。

 ラスティニャックはデルフィーヌとの関係を利用して社交界で成功するつもりだった。だが、次第に恋愛感情が高まっていく。デルフィーヌの贅沢な生活につきあっていたため、資金が尽きていく。勉強も怠るようになった。

 ラスティニャックはヴィクトリーヌの兄を殺害するというヴォートランの計画を思い出す。ヴォートランはこれを実行する。その計画を遂行していた頃、ヴォートランが実は脱獄犯であり、犯罪組織の首魁だということが下宿人に知られる。ヴォートランは計画を実行した頃に、逮捕される。

 事件が落着したと思ったところで、別の問題が起こる。ここから物語は終幕に向かっていく。

 ゴリオ爺さんの破滅

 デルフィーヌとアナスタシーがゴリオを訪ねてきた。この二人の娘はどちらも経済的に危機に陥ったため、ゴリオに助けを求めにきたのだ。二人の娘は自分が助かろうとして言い合いを始める。ゴリオはどちらの娘も助けたいが、もはや金がない。なにもしてやれないことを痛感する。そのような中で、脳卒中で倒れてしまう。

 ラスティニャックはゴリオの看病をする。二人の娘にたいし、見舞いにくるよう求めた。だが、応じられなかった。ゴリオの容態は悪化していく。ゴリオは最後の最後まで、二人の娘を溺愛しつづけた。ゴリオは没する。デルフィーヌは来なかった。

臨終のゴリオ爺さん

 ラスティニャックの新たな門出

 ラスティニャックはゴリオを埋葬する。二人の娘は葬儀に参加せず、手もかさなかった。葬儀の後、ラスチニャックは墓地の丘の頂上まで歩き、パリを見渡した。その後、デルフィーヌとの食事の用事をしていた。ラスティニャックはもはや次を見据えているのだ。ラスティニャックは夕暮れのパリに向かって、「さあ,俺と勝負だ」といい、社会の征服に挑み始める。

 本作の意義

 『ゴリオ爺さん』はバルザックの壮大な『人間喜劇』という文学プロジェクトの始まりとして重要である。このプロジェクトにおいて、バルザックは同じ登場人物を複数の小説に登場させるという「人物再現」の手法を用いた。これは、今日の小説などでときどき見かけるものだが、当時のフランスでは新しかった。

 さらに、『人間喜劇』のプロジェクト自体が野心的なものだった。これに属する複数の小説によって、当時のフランス社会を文学的に表現しようとしたのだ。対象としてのフランス社会をリアルに描こうと試みた。その結果、フランス近代のリアリズム文学に大きな貢献をした。『ゴリオ爺さん』はこのような画期的な技法や事業の始まりの書として重要である。

※バルザックの生涯と作品については、「バルザック」の記事を参照。

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