シャルル・ボードレールはフランスの詩人や批評家(1821 -1867)。フランスの近代詩のはじまりとしての意義をもつ。社会主義運動に身を投じるなど、詩人以外の面でも活発に行動した。実は、文人や芸術家との交友範囲は広かった。音楽批評によって、当時の音楽の発展にも貢献した。これからみていくように、、代表作の『悪の華』は彼自身に思いもよらぬ事態をもたらすことになる。
ボードレールの生涯
ボードレールはパリで、聖職者や官吏の家庭にうまれた。だが、幼い頃に父が没し、母はすぐに軍人と再婚した。ボードレールはリヨンやパリで学び、法学をおさめるべく学業を続けた。だが、次第に放縦な生活を送るようになった。見かねた両親は彼を改心させようとしてインドに送ろうとしたが、失敗した。
ボードレールはその後、亡き父の遺産を相続した。だが、再び放縦な生活を送り、金遣いが荒かった。1844年、母親が裁判所に訴えた結果、遺産相続に大幅な制限が課せられた。かくして、ボードレールは厳しい経済状況に置かれることになった。
批評家などとしての活動
そこで、1845年から、ボードレールはまず批評家として身を立てることになった。同年、『1845年のサロン』を公刊して、美術批評を行った。1846年には『 1846年のサロン』を公刊した。
そこでは、当時の主要なロマン主義画家のドラクロワを称賛した。これらによって、ボードレールは美術批評家として名を馳せた。1847年には、小説の『ラ・ファンファルロ』を公刊し、作家としても活動した。また、アメリカの詩人エドガー・アラン・ポーの詩に感銘を受け、影響をうけるようになる。
2月革命
1848年、フランスは2月革命が起こり、王政から共和政への転換が生じた。20代後半だったボードレールはプルードンらの革命思想に強い関心を抱き、二月革命に身を投じた。ジャーナリストとして活動し、革命のために新聞も制作した。
しかし、フランスの新たな共和制は短命だった。この新体制のもとで、ナポレオン3世が台頭し、実権を握った。ついに、1851年には、フランスを共和制から帝政に移行させ、自ら皇帝に即位した。ボードレールはこの一連の流れによって、現実政治に冷ややかな眼差しを送るようになった。むしろ、メストールのような反革命の思想に関心を抱くようになる。
1850年代のボードレール
1850年代には、エドガー・アラン・ポーに傾倒し、その著作を翻訳していった。翻訳家としても名を馳せるようになった。翻訳はボードレールの安定的な収入源となった。
『悪の華』:肉体の罪と悪徳、黒いヴィーナス
1857年、ついに、彼の代表作として知られる詩集『悪の華』を公刊した。
これは30年代には創作が開始された大作だった。しかし、当時のアカデミーでの評判は芳しくなかった。それどころか、官憲からは公序良俗違反として罰金刑にさえ処された。なおかつ、特に問題視された詩集中の六編を削除するよう命じられた。この命令は20世紀なかばまで撤回されなかった。

ボードレールは、世間に評価されない苦しみと貧しさに苦しみながらも、創作活動を続けた。たとえば、1859年には、『1859年のサロン』を公刊した。1861年、『悪の華』第二版を公刊し、官憲の検閲で問題視された部分を削除した。
他にも、ボードレールはゴーティエやユーゴーなどの文人や、ワーグナーやリスト、ベートーヴェンなどの音楽家にかんする批評も行った。美術批評によって、近代絵画の形成にも寄与したとされる。交友範囲も広かった。

最晩年
1864年、自身の著作を刊行すべく、また、借金の債権者から逃れるべく、ベルギーを訪れた。だが、その際に重病にかかった。1866年にパリに戻り、翌年没した。没後、詩集『パリの憂鬱』が公刊された。本書は80年ほど後に詩人の三好達治によって邦訳されることになる。
ボードレールの意義
ボードレールは、詩人としては芸術としての芸術を追求した。美という価値を真偽や善悪などの価値に従属させず、自立させた。象徴主義やより後の近代詩の基礎を確立したと評されている。
ボードレールの肖像写真

ボードレールと縁のある人物
●エドガー・アラン・ポー:ボードレールがのめり込んだアメリカの詩人。日本ではむしろ近代的な推理小説の父として有名。江戸川乱歩の筆名の由来となった作家。
ボードレールの主な著作・作品
『1845年のサロン』(1845)
『1846年のサロン』(1846)
『ラ・ファンファルロ』(1847)
『悪の華』(1857)
『1859年のサロン』(1859)
『人工天国』(1860)
『リヒャルト・ワーグナーと「タンホイザー」のパリ公演』(1861)
『小散文詩』(1862)
『ウージェーヌ・ドラクロワの作品と生涯』(1863)
『パリの憂鬱』(1869)
おすすめ参考文献
中地義和編『ボードレール詩と芸術』水声社, 2023
小倉康寛『ボードレールの自己演出 : 『悪の花』における女と彫刻と自意識』みすず書房, 2019
Seth Whidden, Reading Baudelaire’s Le spleen de Paris and the nineteenth-century prose poem, Oxford University Press, 2022


コメント