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エミール・ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』とは:百貨店の誕生期の時代物語

エミール・ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』( Au Bonheur des Dames)のあらすじ

 物語の舞台は1860年代のパリである。当時、デパートが世の中に誕生し、普及しつつあった。主人公ドゥニーズ・ボーデュと 2 人の兄弟のペペとジャンは両親をなくした。そのため、パリに住む叔父のもとに身を寄せる。
 叔父の一家は老舗の洋服屋を営んでいる。ドゥニーズらは叔父の家に行く途中で、ボヌール・デ・ダム百貨店というデパートの前を通る。
 彼らは叔父の家につく。叔父の洋服屋がボヌール・デ・ダム百貨店の勢いに押されて、潰れかかっていることを知る。そのため、叔父はドゥニーズに自分の店での仕事を与える余裕がない。しかたなく、ドゥニーズはボヌール・デ・ダム百貨店に食を求める。叔父はライバル店にドゥニーズが応募したので、激怒する。
 ボヌール・デ・ダム百貨店のオーナーはムーレという人物である。ムーレはすべての女性の欲望を利用してビジネスを成功させようとしている。ムーレはいつも通り出社し、亡き妻の遺影に感謝を捧げ、仕事を始める。各売り場を見せまわる。そのとき、採用面接にきていたドゥニーズを見かけ、気にいる。ドゥニーズを雇うことになる。他方、ドゥニーズはムーレにたいし、なんともいいがたい恐怖を感じる。
 週末、ムーレは貴族たちのお茶会に出席する。ムーレはデパートの拡張を目論んでいる。そこで、近隣の土地を男爵に売ってくれるよう依頼する。男爵は出席していた淑女たちに、デパートの宣伝をする。淑女たちはこの女性向けデパートに心を惹かれる。翌日、彼女たちはボヌール・デ・ダム百貨店のセールに足を運び、魅了される。
 ドゥニーズは同僚のいじめにあう。彼女は弟たちの生活費も支払っていたので、苦労する。友人はドゥニーズに売春して稼ぐよう提案するが、ドゥニーズは拒否する。ドゥニーズは密かに想いを寄せていた同僚がバーで卑猥なことをしているのを目撃して、ショックを受ける。他の男性から告白されるが、断る。
 ボヌール・デ・ダム百貨店は閑散期に入る。店員たちはクビになるのを恐れている。このような状況で、ドゥニーズに好意を抱いているが思い通りにならない店員が、ドゥニーズをクビにする。ドゥニーズは生活が苦しくなる。
 ドゥニーズはボヌール・デ・ダム百貨店から距離を取り、他の洋服屋で仕事を見つける。だが、ある日ムーレとたまたま出会い、彼のデパートという新しい時代のビジネスに興味をもっていることを語る。
 デパート(百貨店)というビジネススタイルはそれまでの伝統的な洋服屋を犠牲にしながら成長している。ドゥニーズの叔父の店が潰れかけているように。それでも、ドゥニーズはそれが時代の必然だと考え、デパートというビジネスに関心を抱いている。
 ドゥニーズはムーレにボヌール・デ・ダム百貨店に戻るよう説得され、戻る。デパートは再びセールで活況となる。多くの女性がセールを訪れる。買い物に熱中する女性もいれば、万引きの誘惑に駆られる女性もいる。
 ムーレはデパートの多くの女性を愛人にしようとする。ドゥニーズも食事に誘う。ドゥニーズは愛人にはなりたくないと考える。ムーレは幾人かの愛人を抱える。その愛人がドゥニーズい嫉妬するなどして、問題が起こる。ムーレは愛人を切り捨て、ドゥニーズの愛を得ようとする。
 他方で、ムーレはボヌール・デ・ダム百貨店を拡張しようとする。上述の男爵に資金援助などを頼む。他の人物が別のデパートを計画するなどして、競争が予想される。
 ムーレはデパートの拡張に成功し、より大きな利益をあげる。同時に、ドゥニーズにのめり込んでいく。売上が拡大しても、ドゥニーズの愛を勝ち取れないので、むなしく感じる。
 ムーレはドゥニーズに恋人がいると思い、再度愛を告白する。ドゥニーズは再び断るが、恋人はいないと告げる。ムーレはドゥニーズを昇進させる。ドゥニーズはそれを利用し、デパートの福利厚生の改善をはかる。たとえば、社員用の教育プログラムなどを立ち上げる。
 ボヌール・デ・ダム百貨店は破竹の勢いで成長を続ける。それまでの洋服屋の多くを倒産に追い込みながら。店主たちは破産し、自殺したり、田舎に隠居したりする。ドゥニーズは彼らをあわれに思い、倒産しないよう資金援助を提案していたが、断られる。彼らの悲劇に心を痛めるが、これが時代の必然なのだと思う。
 巷では、ムーレとドゥニーズの噂が広まっている。ドゥニーズはそれに嫌気がさしている。そろそろボヌール・デ・ダム百貨店を退職しようかと考えている。
 ボヌール・デ・ダム百貨店は相変わらず賑わっている。売上も伸び続けている。だが、ムーレはドゥニーズの愛を得られていないので、むなしさを感じ続けている。他方、淑女らはいまでも買い物に熱中している。それで財産を使い果たした者もいる。万引きで捕まる女性も出てくる。
 ムーレはドゥニーズを呼び寄せ、愛を告白する。ドゥニーズは今度はこれを受け入れる。ムーレの亡き妻の遺影の前で、二人は抱き合う。

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ゾラ『ボヌール・デ・ダム百貨店』伊藤桂子訳、論創社、2023年

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