『桜の園』はロシアの近代的な作家チェーホフの戯曲作品。1903年に制作され、翌年に初演された。
チェーホフの『桜の園』のあらすじ
舞台は5月の寒いロシアである。霜が降りた朝、外には桜が咲いている。この地に、貴族のラネフスキー夫人と娘アーニャらが5年ぶりに帰ってきた。ラネフスキー夫人は夫と末っ子の死をきっかけに、パリに移り住んでいた。そこから自身の領地に戻ってきたのだ。
領地の邸宅では、ラネフスキーの子供や召使が待っている。他にも、近所のビジネスマンのロパーキンらもきている。ラネフスキーらが自宅に戻ってくると、再開を喜ぶ。アーニャは母親がパリでは貴族とはいえ比較的貧しい生活だったと語る。
一家に厳しいニュースが届く。ラネフスキー家は厳しい経済状況に合った。領地を担保として、多くの借金を重ねている。その結果、8月末までに領地の利子を返済する方法を見つけなければ、その土地と、その大部分を占める広大な桜の園が競売で売られることになる。
ラネフスキーは桜の園を愛しており、手放したくない。そこに、ロパーキンが借金返済の計画を提案する。桜の園の木々を切り倒し、そこに別荘用のコテージを立てて、新興の中流階級に貸し出すのだ。そうすれば、借金をしっかりと返せるだろう、と。だが、ラネフスキーは却下する。
これにたいし、ロパーキンは他に方法はないという。もし気が変わったら、自分がそのために融資する、といって立ち去る。ラネフスキーは金がないにもかかわらず、貧しい近隣の地主に金を貸す。
ラネフスキーらは借金をどうすべきかを話し合う。息子は叔母から借金するなどの案を出す。
その後、ラネフスキー、息子、ロパーキンは豪華な昼食を終えて、邸宅に戻ってくる。ロパーキンの計画について話し合う。だが、ラネフスキーはその計画を下品として再び却下する。ラネフスキーはパリにいる恋人をロシアに来させようとして連絡している。
そこに、アーニャらがやってくる。かつての家庭教師もそこにおり、ロシアの現状の問題について論じる。ロシアの知識階級がいかに怠惰であり、勤勉な労働者がいかに少ないかを。
浮浪者がやってきて、ラネフスキーに施しを求める。ラネフスキーは小銭をもっていなかった。だが、昔ながらの貴族の振る舞いとして、金を与えようとする。金貨しか持っていなかったので、金貨を渡してしまう。現状を無視したこの行いに娘のバーバラが激怒し、その場を去る。
アーニャはかつては桜の園を心から愛していたが、今は何も感じないと家庭教師に告げる。家庭教師はアーニャがこれまで虐げられてきた、そこで働いてきた労働者階級に共感しているからではないかと語る。家庭教師はアーニャに親密な感情を抱いている。
競売の日になる。ラネフスキーは地元の名望家を呼んで、パーティーを開いている。息子は競売に行っており、叔母からの資金調達も試みている。ラネフスキーは心配しながら彼の帰りを待つ。
家庭教師がやってくる。ラネフスキーはパリの恋人との関係がよくないことを彼に語る。家庭教師はラネフスキーと口論になり、ラネフスキーが現実を直視できていないという。
息子が泣きながら帰って来る。ラネフスキーは詳細を問うが、彼は答えずに部屋を出ていく。ロパーキンが意気揚々としてそこにやってくる。ラネフスキーは競売の様子を彼に聞く。
ロパーキンは自分が競売でこの桜の園を買い取ったという。自分の手で自分の計画を実行する。貧しい農民出身の自分が、この土地で中流階級として成功するのだ、と。
これを聞いて、ラネフスキーは泣き崩れる。アーニャはほかの土地でまた美しい園を築こうといって、慰めようとする。
10月になる。ろパーキンの計画は進められており、桜の園では伐採が始まっている。ラネフスキーの人びとはこの地を去ろうとしている。ラネフスキーは再びパリに向かうつもりだ。アーニャは離れた学校へ、息子は街で働きに出ることになる。
ラネフスキーはロパーキンにたいし、自分の娘(アーニャとは別の娘)にプロポーズするよう促す。ロパーキンはかつてその娘に好意を寄せていたからだ。ロパーキンは同意する。
ラネフスキーは娘と彼を二人きりにする。だが、二人の会話中、ロパーキンは外に呼び出され、出ていってしまう。プロポーズはなされず、娘は泣き崩れる。彼女も旅立ちを決める。
みながこの邸宅と桜の園に別れを告げる。アーニャは涙ながらに、母と別れを告げる。ラネフスキーは涙ながらに、かつての領地に別れを告げる。ロパーキンは意気揚々としている。ラネフスキーが家の鍵をしめ、全員が立ち去る。
だが、家の中には、老いた召使が置き去りになっていた。彼はソファーに横になる。桜の木が切り倒される音を聞きながら、自分の人生が無駄に過ぎ去ったことを嘆き、永い眠りにつく。