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ドストエフスキーの『罪と罰』

 ドストエフスキーの『罪と罰』はロシア文学の最高峰として知られています。それだけでなく、世界的な文学でも最高峰の作品として認知され、世界中で読まれています。
 本書はどのような状況でうみだされ、どのような内容であり、なぜ名著だといえるのか。これらの点をみていきましょう。

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ドストエフスキーの『罪と罰』とは

著者はどんな人?

 まず、著者の紹介から始めましょう。

 ドストエフスキーはロシアのモスクワで生まれました。17歳で、ペテルブルグの工兵士官学校に入り、軍人になりました。
 同時に、文学に関心を抱き、シラーやゴーゴリらの著作に親しみました。同時代のフランスの作家バルザックの著作の翻訳に関わり、成功しました。そこで、作家を目指すようになります。 

 処女作『貧しき人々』が成功しました。「新たなゴーゴリ」が登場したと評されました。
 ドストエフスキーは社会主義に関心を抱きます。そのため、逮捕され、死刑の判決がくだされました。死刑は回避され、1850年から四年間、シベリア刑務所に投獄されました。
 出所後、彼は刑務所ぐらしの経験をもとに、『死の家の記録』や『虐げられた人々』を公刊しました。妻や兄を失ったため、彼はアルコール依存症に陥り、困窮した生活を送ります。
 1866年、刑務所ぐらしの経験を利用しながら、『罪と罰』を公刊しました。

どんな内容?

本書の背景

 本書は当時のロシアの「病」やドストエフスキー自身の経験や知見を反映しています。当時のロシアは貧困や汚職、アルコール依存症が蔓延していました。
 ドストエフスキーは自身や周囲の貧しさやアルコール依存症、役人の汚職などに憤りを感じていました。これらを『罪と罰』のテーマとして練り上げていきます。
 他方で、当時のロシアは社会の伝統的な道徳観が大きく揺らいでいました。それまでのキリスト教的な道徳観がヨーロッパの合理主義や社会主義などによって動揺していました。ドストエフスキーはこのようなテーマをも、本書で扱っています。 

あらすじ

 あらすじの一部を紹介しましょう。
 物語の舞台は19世紀なかばのサンクトペテルブルクです。主人公は貧しい学生のラスコーリニコフです。
 彼はプライドが高く、野心的で、知的だが、貧しく、まともな食事を取っていません。粗末なアパートの最上階の部屋に住んでいます。

19世紀なかばのサンクトペテルブルク

 ラスコーリニコフは、この世界には二種類の人間がいると考えています。平凡な人間と、ナポレオンのような例外的で特別な人間です。ナポレオンのような一握りの人間だけが、社会の道徳を守らず、それを踏み越える権利をもちます。
 ラスコーリニコフは自分自身が特別な人間の一人であるのかどうか確かめたいと考えます。社会のルールを踏み越えられる人間なのかどうか。それを確かめようという思いもあって、ある行動を起こします。それは、殺人です。
 ラスコーリニコフは質屋の婆さんをその標的に選びます。まず、その質屋を訪れ、父の時計を質に入れて金を受け取ります。
 帰り道、ラスコーリニコフは酔っぱらいのマルメラードフと出会います。 マルメーラードフはラスコーリニコフに家族の問題を話します。
 妻カテリーナは病弱であり、娘ソーニャは生計を立てるために売春をしています。 ラスコーリニコフはマルメーラードフのアパートまでついていき、彼らの貧しい生活ぶりをみます。
 ラスコーリニコフは町中で、上述の質屋の婆さんの悪い評判を聞きます。多くの人たちが貧困のために婆さんから金を借りていますが、この婆さんがどれほどひどいかを聞きます。
 さらに、翌日に婆さんと同居している妹が不在になることを知ります。ラスコーリニコフは翌日に計画を実行しようと決めます。
 翌日、ラスコーリニコフは犯行を決行します。質屋の婆さんを殺害し、強盗を行います。思いがけず、婆さんの妹がそこにやってきます。ラスコーリニコフは彼女をも殺してしまいます。
 他の客が質屋を訪ねてくる中で、ラスコーリニコフはどうにかそこから逃亡し、自宅に戻ります。
 かくして、ラスコーリニコフは殺人と強盗によって社会の道徳的ルールを踏み越えました。本書はこの罪をめぐる物語です。

『罪と罰』のなにがすごいのか?名著といわれる理由

 本書が名著として名高い理由は多くあります。その中でも特に指摘されるのが、圧巻の心理描写です。とくに、犯罪者の心理描写です。
 そもそも、『罪と罰』は1866年に雑誌で徐々に公刊された頃、もともとは「犯罪の心理学的説明」というタイトルでした。ドストエフスキーの狙いがよくみてとれます。
 上述のように、ドストエフスキーは犯罪者の心理をシベリアの刑務所などで観察してきました。主人公ラスコーリニコフが強盗殺人という特に思い罪を犯すことで、重大犯罪者となります。その心理描写の巧みさが本書を名著として認知させた主な原因です。
 読者はドストエフスキーの文章を読むことで、ラスコーリニコフの心の中に入り込むことになります。読者は彼の視点から出来事をみることで、主人公の考えや感情を共有し、「体験」し、いわば「共犯者」となります。
 たとえば、ドストエフスキーがこだわったのは、主人公の罪の動機です。上述のように、自身が特別な人間の一人なのかを確かめたいという動機。
 強欲で卑劣な婆さんから、哀れで貧しい善良な人たちを解放したいという動機、など。これらの動機の錯綜した関係が描かれます。
 さらに、ドストエフスキーは強盗殺人という重罪がいかにして犯罪者の心にのしかかっていくかをも巧みに描きあげます。このようなリアルな描写ゆえに、ドストエフスキーはロシアのリアリズム文学の代表者とみなされています。

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 本書によって、読者は、時代を超えて世界的に称賛されてきた圧巻の心理描写とはどのようなものなのかを知り、味わうことができます。19世紀のロシアの文化や社会への理解が深まります。ドストエフスキーは近代以降の日本文学などにも一定の影響を与えてきましたので、その理解にも役立ちます。

 果たして、主人公ラスコーリニコフは特別な存在になることができたのか?本書の中心的なテーマである、彼の重い罪にたいする「罰」とは一体なんなのか?
 それらを知りたい方は、そして本書の圧巻の心理描写を味わいたい方は、本書を実際に読んでみるようおすすめします。本書はサスペンス小説や探偵小説としても面白いと好評です。

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