『方法序説』はフランスの哲学者のルネ・デカルトが17世紀前半に公刊した著作。近代哲学の始まりとして広く重要性を認められてきた西洋哲学の古典である。この記事では、『方法序説』のおおまかな内容と意義を紹介する。
この記事はPRを含んでいます
本書の性格
『方法序説』はデカルトが最初に公刊した著作である。それまでのデカルトの知的探求の遍歴を紹介するとともに、この時点でのデカルト哲学のエッセンスをコンパクトにまとめて示している。
本書はフランス語で書かれたのも特徴的だ。当時、哲学などの学術書はラテン語で書かれた。ラテン語がヨーロッパ中の学者たちに通用する言語だったためだ。だが、デカルトはより一般的な読者層をも見込んだこともあり、俗語であるフランス語で本書を書いた。
本書は、デカルト自身の3つの試論(屈折光学と気象学および幾何学)の序文として書かれたものだ。理論的な内容としては、光学や幾何学などの諸学問に共通する方法について論じたものである。
内容
本書は六部で構成されている。
第一部では、デカルトの知的探求の長い旅がどのように始まったかが示される。良識はこの世界ですべての人に備わっているという最初の一文が有名である。全てのひとにとって、良識あるいは理性は共通である。
だが、確実なことを知りたいと思っても、簡単にはうまくいかない。この点で、デカルトは自身の通っていたイエズス会のラ・フレーシュ学院のスコラ学を批判する。ここにおいて、伝統的な学問との対決を明示している。
その後、この学院を卒業し、デカルトは旅に出て、「世間という大きな書物」を読みあさった。そこでは世間の多様性を知った。だが、そこにも、確実なものは見いだせなかった。そのため、結局、デカルトは自らの精神へと向き直る。外から内へ。かくして、哲学的考察を本格的に開始した。
第二部では、デカルトは自身の方法論を提示する。これは数学のような確実性を目指したものであり、複雑な問題を単純なものに変換して解決しようとする。これは4つのルールで構成される。
第一に、自分で証明できない限り、何も信じないこと。第二に、あらゆる問題を最も単純な部分に還元すること。第三に、常に順序よく考え、最も単純な部分から最も難しい部分へと進むこと。第四に、問題を解くときは、常に長い推論の連鎖を作ることである。
第三部では、自身の道徳的なルールを暫定的にであれ、示している。たとえば、自分の国や宗教の規則や習慣を守り、極端な意見を採らないことなどである。その後、デカルトはさらに10年近く旅を続けた。
第四部から、デカルト自身の形而上学の理論が展開される。第四部は特に有名である。というのも、「我思う、ゆえに我あり」の一文が含まれるためである。
デカルトは上述のように、確実な知を求めていた。そのために思索を続けた。自分で何を確実なものとして論証できるのか。デカルトは疑ってかかった。確かな知識を得るための方法として、懐疑を採用したのだ(方法論的懐疑)。
その結果、確実な知識を得る上で、感覚がいかに頼りにならないかを痛感するようになった。
そのように疑い続けている自分というものが存在すると考えるに至った(自分が存在しなければ、疑うという行為は存在しない)。このようにして、我思う、ゆえに我ありと考えるに至った。このデカルトの知的格闘は原著で確認したいところである。
第四部では、ほかにも、神の存在証明も試みている。これもまたときとして参照される部分である。
第五部では、デカルトの形而上学に基づく自然学が簡略的にだが、示される。たとえば、動物を機械として説明している。また、当時提唱されたばかりの血液循環説も扱っている。
第六部では、本書の公刊した経緯と今後の展望が語られる。デカルトは自然学が人間を自然の主人にし、幸福へと導くと語っている。
意義や重要性
本書は近代哲学への始まりの一冊として知られる。長らく、ヨーロッパではアリストテレス哲学やスコラ哲学が伝統的な学問として影響力を行使していた。
だが、16世紀には、伝統的な学問の不備が次第に目立ち始めた。ヴェサリウスの人体解剖による解剖学の発展や、大航海時代での新しい知見などが原因である。
17世紀に入り、イギリスではベーコンが経験主義のアプローチで学問の刷新を開始した。少し遅れて、デカルトがフランスないしオランダで合理主義のアプローチで学問の刷新を開始した。
その結果、古代や中世の哲学が近代の哲学に取って代わられていく。このような大きな流れを引き起こした原動力の一つとして、本書は重要性を認知されている。
他方で、上述のように、本書は純粋な理論書に終始するものではない。デカルト自身の知的な遍歴やプロフィールも示されている。デカルトの知的格闘の成果(としての方法論や形而上学)だけでなく、その格闘の過程も見せてくれている。
このような著作は珍しい。流れが大きく変わりつつある時代に、画期的な知的事業を起こそうとしている人物の知的ドキュメンタリーとしての価値も本書にはある。
アマゾンはこちらから
おすすめ参考文献
谷川多佳子『デカルト『方法序説』を読む 』岩波書店, 2014
→『方法序説』が古典としては入門書として人気が高いため、その解説書も複数ある。そのなかでも、本書を選んだ。。本書の著者は『方法序説』の岩波文庫版の翻訳者でもある。デカルトやライプニッツなどの大陸合理主義の哲学を専門とするベテランの研究者である。
本書は岩波現代文庫の一冊であるので、一般向けである。ベテランの専門家が一般向けに書いた解説書として、まさにおすすめの一冊だ。
本書では、『方法序説』の解説がなされるだけではない。17世紀に公刊されてから現代に至るまで、本書がどのような影響を与えてきたのかも論じられている。よって、『方法序説』の西洋古典としての意義のみならず現代的な意義をも理解することができるだろう。
アマゾンはこちらから