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ディケンズの『オリバー・ツイスト』

 『オリバー・ツイスト』は19世紀のイギリスの作家チャールズ・ディケンズの小説である。その代表作の一つであり、近代イギリス文学の古典的名作として知られる。この記事では、本作の背景とあらすじ、意義や魅力を説明する。

 『オリバー・ツイスト』(Oliver Twist)の背景

 この小説は1837から38年に雑誌で連載された。その語り口が巧みであったため、すぐに人気を獲得した。
 本書はロンドンの貧しい人たちと裏社会を描いたものである。イギリスは18世紀後半から世界でも最初に産業革命を経験した。蒸気機関を用いて工業を大々的に発展させた。これは社会の様相を大きく変貌させた。
 その一環として、大規模な工業都市が形成された。農村から大量の人々が工業都市に移り、労働者として働いた。衛生や労働などの条件が悪かったため、彼らの多くは苦しい生活を送った。都市の労働者にとっては、貧困が身近な問題だった。貧困は犯罪と隣り合わせだった。
 さらに、1834年の新救貧法がこの問題に拍車をかけた。この法律により、困窮者への救貧事業が縮減された。さらに、働ける者は労働を強制されるようになった。そのため、この法律は当時、強い反発をうんだ。
 ディケンズ自身もまた、幼少期から貧困に苦しんでいた。貧困と犯罪はよく精通していたテーマだった。新救貧法を問題視したディケンズは、この法律をきっかけにしながら、本書を執筆した。

 あらすじ

 主人公のオリバー・ツイストは1830年代にロンドン近くに生まれる。父が誰かわからず、母は生まれて間もなく没した。そのため、ロンドン近くの田舎町の救貧院で9年間、孤児として育てられる。
 その後、オリバーは作業場で移され、働くことになる。食事の量が少なく、粗末なおかゆのおかわりをもとめた。これがきっかけで、作業場を追い出され、近くの葬儀屋の奉公人となった。だがここでも虐待を受けたため、オリバーはついに逃げ出し、ロンドンへと向かう。

 オリバーはロンドンについた。身よりもなく手に職もない少年が、見ず知らずの土地にやってきた。オリバーはすぐ飢えと疲労に苦しむ。そのとき、同年代の少年と
出会い、フェイギンという老紳士の家に連れてこられる。そこには、オリバーのように、孤児の少年たちが大勢いた。
 フェイギンは窃盗団の頭領だった。オリバーのような孤児たちを集めては、スリなどの方法を仕込み、犯罪を行わせて稼がせていた。オリバーもまたスリの仕方を仕込まれた。オリバーと他の少年はスリへ派遣される。

 だが、オリバーは善良な少年であり、実際にはスリを行えなかった。他の少年が裕福な老紳士ブラウンロー氏からハンカチを盗む。

ブラウンロー氏がハンカチを盗まれるのをみて驚くオリバー

ブラウンロー氏はオリバーが盗んだと勘違いし、オリバーを逮捕させた。だが、この間違いに気づく。オリバーの身の上を知り、オリバーを自宅で引き取ることにした。

 ここから、ブラウンロー氏とフェイギンの戦いが始まる。オリバーはフェイギンの窃盗団の内情を知ったため、フェイギンはオリバーをほうっておくわけにはいかなかった。そこで、オリバーを奪い返した。

 フェイギンはオリバーに強盗を手伝わせる。だが、強盗中に、 オリバーは屋敷で撃たれる。善良なオリバーは屋敷の主人のメイリー夫妻に気に入られ、その家に引き取られることになった。

 だが、フェイギンはやはり諦めなかった。モンクスという男とともに、オリバーの奪還を計画する。フェイギンの窃盗団では仲間割れも生じる。事件の全貌が徐々に明らかになっていく。

 メイリー夫妻はブラウンロー氏をオリバーと再開させた。ブラウンロー氏はいまやフェイギンとモンクスと本格的に対峙することになった。モンクスとの話し合いの結果、オリバーの重大な事実が明らかになった。

 モンクスはオリバーの異母兄だった。オリバーの父親はモンクスとオリバーに多額の遺産を残していた。モンクスはこの遺産のために、オリバーを捜し続けており、ようやく見つけたところだった。

  ブラウンロー氏はモンクスに、オリバーの取り分をオリバーに譲るよう迫る。オリバーは遺産の分け前を受け取ることができた。ブラウンロー氏の養子として受け入れられ、幸せに暮らした。フェイギンは逮捕され、絞首刑となった。

 意義と魅力

 この作品は産業革命によるイギリス社会の貧困と犯罪のあり様をリアルに描いた。その負の側面を、ディケンズが実体験を踏まえながら、義憤によって作品化したものといえる。本作以降でも、ディケンズは貧困が犯罪をうむという考えを作品で表現することになる。
 上述のように、この作品はすぐに人気を博した。この作品は、あらすじでは伝えきれないような語り口の巧みさや刺激的なプロットによって人気をえた。名作として定着し、何度も舞台や映画にもなった。

※ディケンズの生涯については、「ディケンズ」の記事を参照。

 ディケンズの『二都物語』については、「二都物語」の記事を参照。

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