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ホメロスの『イリアス』

 『イリアス』は古代ギリシャの詩人ホメロスの抒情詩。彼自身の『オデュッセイア』とともに、ギリシャの代表的な抒情詩として知られる。紀元前8世紀頃につくられた古典的名作である。古代ローマのウェルギリウスの『アエネーイス』など、後代に広範な影響を与えた。この記事では、あらすじを紹介する。

目次

『イリアス』(Ilias)のあらすじ

トロイ戦争

 物語はトロイ戦争が始まって9年後のことである。トロイ戦争はギリシャ神話の中でも重要な戦争である。ゼウスが増えすぎた人間を戦争によって減らそうとして用いた手段であった。そのために、戦争の原因として、美女ヘレネが誕生した。

 ヘレネはメネラオス王の妻になった。だが、トロイの王子パリスが女神アフロディーテの力を借りて、ヘレネを自らのものとする。これにたいし、メネラオスの兄で王のアガメムノンがギリシャ軍を率いて報復する。ここに、トロイ戦争が始まった。
 トロイ戦争はギリシャ軍(物語ではアカイア軍と呼ばれている)とトロイ軍が戦うだけでなく、神々もまたそれぞれの陣営に味方して戦う。そのため、人間の英雄や神々による一連の壮大な戦いであった。

 『イリアス』の物語

 『イリアス』はトロイ戦争が始まって9年がたった時期の物語である。戦争は終盤である。物語の中心人物は英雄アキレウスである。アキレス腱で有名なアキレスのことである。

 アカイア軍(ギリシャ軍)はトロイの同盟者の町クリュセを攻略し、略奪する。 その際に、美しい女性のクリセイスとブリセイスを奪う。 アカイア軍の総大将だったアガメムノンはクリセイスを自らのものとした。さらに、アカイア軍の英雄アキレウスはブリセイスを我がものとした。
 クリセイスの父はアポロン神の祭司を務めていた。娘が奪われたのを嘆き、どうにか取り戻そうとした。そこで、アガメムノンにたいし、娘と引き換えに莫大な身代金を差し出そうとする。

 だが、アガメムノンはこれを拒否する。そのため、クリセイスの父はアカイアを罰するようアポロン神に祈る。アポロン神はこれを受け入れ、アカイアの陣営に疫病をもたらす。

 疫病が多くのアカイア人の命を奪う。アガメムノンは疫病の原因を知ろうとする。ついに、クリセイスの父の祈りが原因だと突き止める。アガメムノンは仕方なくクリセイスを返還する。その際に、アガメムノンは将軍アキレウスに、美女ブリセイスを自身に引き渡すよう要求する。 この要求がこの物語で鍵を握る。
 アキレウスにとって、プリセイスは戦争で得た戦利品であった。これまで数々の戦功をあげてきたにもかかわらず、戦利品を奪われるという侮辱を受けたのである。アキレウスは激怒する。もはやこれ以上、アカイア軍のために戦争に参加することを拒否する。

対立するアキレウスとアガメムノン

 それのみならず、アキレウスはアガメムノンへの復讐を望む。アキレウスは海のニンフである母のテティスを介して、この戦争がアカイアに不利になるようゼウスに求める。ゼウスはこの望みを承諾する。

 パリスとメネラオスは戦争を終わらせるために決闘する。メネラオスが勝利する。だが、トロイ軍はその協定を破って、戦いを再開する。
 両軍は激しい戦いを繰り返す。トロイ軍は王子パリスやヘクトールが活躍する。ギリシャ軍も英雄オデュッセウスやディオメデスなどが活躍する。

両軍の戦い

 人間たちがこのように戦う一方で、神々もまたそれぞれの陣営に味方して戦っている。たとえば、アポロや女神アフロディーテはトロイ軍を、女神ヘラやポセイドンはアカイア軍を助ける。神々は英雄に特別な力を与え、その輝きを一層強める。同時に、神々同士も戦う。

神々同士の戦い

 ゼウスはアキレウスやテティスの望みどおりにトロイ軍を支援し始める。戦況はトロイ軍に有利になっていく。神々がこの戦争に介入するのを禁じる。ついに、ヘクトールのトロイ郡はアカイア軍をその陣地の要塞まで押し返すのに成功する。

ギリシャ人の要塞を攻略するトロイ軍

 アキレウスは戦いに戻るよう説得される。だが、これを断る。そこで、アキレウスの親友パトロクロスがアキレウスの鎧を着て戦いに出るという提案がなされる。アキレウスの鎧によって、敵を怖がらせるのである。アキレウスはこれに同意する。
 パトロクロスは当初、トロイ軍への反撃に成功する。

パトロクロスの進撃

だが、パトロクロスはアキレウスの命令に反して、さらにトロイ軍を追撃しようとする。ゼウスの命令のもと、アポロンがパトロクロスを打ち倒す。トロイ軍のヘクトルがパトロクロスを殺す。その遺体とアキレウスの鎧を両軍が奪い合う。アカイア軍は遺体を自陣に持ち帰るが、鎧をヘクトルに奪われる。
 アキレウスはパトロクロスの死を知り、悲しみと怒りを抱く。トロイ軍への復讐を誓い、アガメムノンと和解し、アカイア軍に復帰する。

 彼の母テティスはオリンポス山で鍛冶の神ヘパイストスを訪ねる。アキレスのために新しい鎧と盾を鍛造してもらうためである。これらをアキレウスに送る。アキレウスはアカイア軍を率いて、出陣する。

軍に復帰するアキレウス

 トロイ軍はヘクトルの命令で、城壁の外に陣取る。アキレスは平原で多数のトロイの兵を倒していく。その多数の死体が川に落ちたため、川の神クサントスが怒る。アキレウスはクサントスとも戦う。

 アキレウスはトロイの城壁の外に到達する。ついに、ヘクトルと対峙する。 トロイ軍の大部分はアキレウスに恐れをなし、城壁の中に逃げ込む。ヘクトルの妻アンドロマケは幼い息子アスティアナクスを連れて城門に駆け込む。彼女は涙を流しながら、ヘクトルに城壁の中に留まるよう促す。

 だが、 ヘクトルはこれを拒否し、場外に出る。なぜなら、さもなければ、トロイア人の前で恥を感じるからである。さらに、自分には勇敢な精神があるからである。ヘクトールは兜を脱いで地面に置き、我が子に接吻して揺らし、父よりも優れた戦士になるよう祈り、母に返す。 母は、涙を流して笑いながら、息子をその芳しい胸に抱いた。

 アンドロマケは妻としてはヘクトールを引き止めたかったが、トロイの女として盛大に送り出すことになった。これが最後の家族の最後の別れとなった。

 ヘクトルはアキレウスとついに対峙する。アキレウスは城壁の外でヘクトルを追い回す。両者はついに戦い、アキレウスが勝利する。アキレウスはパトロクロスへの復讐を果たした。だが、これで満足しなかった。ヘクトルの死体を戦車にくくりつけ、アカイア人の陣営に引きずっていく。
 アキレウスがアカイアの陣地に戻ると、アカイア軍はパトロクロスの壮大な葬儀をあげる。さらに、パトロクロスを称える競技会を催す。その間、9日間、アキレウスはパトロクロスの棺の周りでヘクトルの遺体をぐるぐると引きずりまわす。

 神々はヘクトルがしかるべき仕方で埋葬されるべきだと考えた。そこで、ヘクトルの父で王のプリアモスをアキレウスのもとへ派遣する。プリアモスはアキレウスに遺体の引き渡しを懇願する。アキレウスは同意し、遺体を引き渡す。

アキレウスに嘆願するプリアモス

 プリアモスはヘクトルの遺体とともに、トロイに戻る。両軍は停戦に入り、ヘクトルの葬儀が行われる。

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おすすめ参考文献

ホメロス『イリアス』松平 千秋訳, 岩波書店, 1992

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この記事を書いた人

国内の大学院を修了した歴史系の独立研究者です。

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