『アウリスのイフィゲネイア』は古代ギリシャの三大悲劇作家エウリピデスの最晩年の作品。紀元前405年に初演された。アガメムノンの娘イフィゲネイアがトロイア戦争で生贄に捧げられる物語。この記事では、あらすじを紹介する(結末までのネタバレあり)。
『アウリスのイフィゲネイア』のあらすじ
この物語の舞台は古代ギリシャのギリシャの港町アウリスである。ここでは、ギリシャ軍の将軍のアガメムノンが野営をしている。
その背景として、ギリシャ軍はトロイ軍とトロイア戦争を始めようとしていた。その原因は、トロイの王子パリスがギリシャのミケーネ王メネラオスの妻ヘレネを連れ去ったことにあった。その連れ去りの原因は神々にあった。
アガメムノンはメネラオスらとともに、艦隊を率いてトロイへと向かっていた。だが、アウリスの港で、足止めされている。なぜなら、風が止んでいるからである。当時の船は帆船であり、航海には風が必要であった。
アガメムノンは従者を呼ぶ。従者がやってきて、どうしたのかと尋ねる。アガメムノンは予言者カルカールの神託について話す。風が止んでいるのは女神アルテミスの怒りのためである。というのも、アガメムノンが道中で、アルテミスの聖なる獣の鹿を殺してしまったからだ。その代償として、アガメムノンは最愛の娘のイフィゲネイアを生贄として捧げなければならない。そうしなければ、風は吹かない、と。
アガメムノンはイフィゲネイアを生贄にする気にはなれなかった。メネラオスにたいし、ギリシャ軍の撤退を求めた。だが、拒否された。仕方なく、イフィゲネイアをギリシアの英雄アキレスとの結婚という嘘の口実のもとで、アウリスに呼び寄せう手紙を彼女に送った。
だが、アガメムノンは諦めなかった。そこで、イフィゲネイアがアウリスに来ないよう指示する別の手紙を送ることにした。それを従者に渡して、急いでイフィゲネイアに届けるよう彼をミケーネに派遣する。
だが、この試みは失敗する。しばらくして、メネラオスがその従者を連れて、やってくる。従者は道中でメネラオスに見つかり、手紙を横取りされたのだった。メネラオスは手紙の内容を知って、激怒する。
メネラオスはアガメムノンにたいし、アガメムノンがギリシャ軍を裏切ろうとしていると言う。アガメムノンは反論する。アガメムノンは妻ヘレネを取り返すという理由で、ギリシャとアガメムノンの家族を危険にさらしている、と。
そこに、使者がやってきて、こう報告する。アガメムノンの妻クリュタイムネストラとイフィゲネイアそして息子のオレステスがアウリスに到来した、と。それを聞いて、アガメムノンはもはや手遅れになってしまったと悟る。アガメムノンはどうしたらいいか分からなくなったと落胆する。
それをみて、メネラオスは彼に同情し、イフィゲネイアをどうにかして助けようと言う。アガメムノンはその言葉を嬉しく思う。だが、もうだめだという。というのも、アガメムノンが犠牲を避ければ、ギリシャ軍が怒り、アガメムノンと家族に怒りの矛先を向けるだろうからである。
クリュタイムネストラと子どもたちがアガメムノンのもとにやってくる。彼女たちはイフィゲネイアの結婚を心待ちにしている。アガメムノンは憂鬱な表情をして、彼女たちを出迎える。イフィゲネイアと離れるのがつらいと涙する。彼女たちはそれが結婚のことを意味すると誤解して、アガメムノンを慰めようとする。
そこに、アキレスが報告しにやってくる。ギリシャ軍の兵隊たちはアウリスで長らく足止めされていることに苛立っている。将軍たちがなんの説明もしないので、なおさらそうである、と。
その後、クリュタイムネストラはアキレスを娘の花婿だと思い込み、アキレスに自己紹介しにやってくる。結婚の話を嬉しげに語る。アキレスは結婚の話を聞かされていなかった。そのため、当惑し、怪訝な表情をする。
そこに、上述の従者がやってくる。話が噛み合わない二人にたいし、アガメムノンの思惑と事情をすべて説明する。かくして、二人はイフィゲネイアの生贄の計画を知る。
クリュタイムネストラはアキレスに、イフィゲネイアを助けてくれるよう懇願する。アキレスは同情を示し、イフィゲネイアを守ると約束する。
アキレスはこの生贄という恐ろしい計画をイフィゲネイアには知らせないよう、クリュタイムネストラに言う。同時に、クリュタイムネストラが計画の中止を彼に説得すべきだと提案する。もし彼女が失敗したら、アキレス自身も彼女のために行動する、とも言う。
クリュタイムネストラはアガメムノンを探す。だが、なかなか見つからず、苛立つ。生贄の計画をイフィゲネイアに話してしまう。
そこに、アガメムノンがやってくる。彼は彼女たちがすべての事情を知っていることに気づいていない。結婚式のために、イフィゲネイアを連れて行く、と告げる。
クリュタイムネストラはイフィゲネイアの前で、すべてを話すよう、アガメムノンに求める。アガメムノンは何も隠していないふりをする。クリュタイムネストラは激怒し、彼を強く非難する。イフィゲネイアは彼に命乞いをする。自分は何も悪いことをしていない、と。クリュタイムネストラは彼に、生贄を実行する場合、彼に今後敵対するだろうと宣言する。
アガメムノンは苦悶を感じながら、もはやどうしようもないと答える。というのも、この戦争は神々が起こしたものだからだ。神々に反すれば、神の怒りが降り注ぎ、より大きな災いが生じてしまうだろう、と。こう述べて、アガメムノンは立ち去る。
イフィゲネイアは父と運命を呪う。そこに、アキレスがやってくる。ギリシャ軍はもはやアウリスでの足止めに耐えられなくなっていると言う。イフィゲネイアの生贄を求める声が高まっている。だが、アキレスはイフィゲネイアを守り抜くつもりだ、と。
イフィゲネイアは、決意する。避けられない運命に抗うことをしない、と。祖国の栄光と自由のために、生贄になることを決める。アキレスは生贄になるより生き延びるよう説得するが、拒否される。
イフィゲネイアはクリュタイムネストラに、もはや泣いたり、アガメムノンに激怒したりしないようなだめる。そして、クリュタイムネストラとオレステスに最後の別れを告げる。女神アルテミスに、自分の犠牲を受け入れるよう祈る。生贄の祭壇へと向かう。
しばらくして、使者がやってきて、報告する。生贄の儀式において、イフィゲネイアが鹿に変身した。これはアルテミスが犠牲に満足したことを示す。イフィゲネイアは命を助けられ、神々のもとに召し上げられたのだ、と。
だが、クリュタイムネストラはこれを聞いて、半信半疑になる。
アウリスに、風が吹き始める。アガメムノンがやってきて、クリュタイムネストラをなだめようとする。クリュタイムネストラは無言で立ち去る。アガメムノンはいざ出陣する。
おすすめ関連作品
→トロイア戦争はどうなったのか、の物語
→トロイア戦争後、アガメムノンは帰国し、クリュタイムネストラとどうなったのかの物語。イフィゲネイアの生贄が鍵を握っている。
おすすめ参考文献
Euripides, Iphigeneia at Aulis, Oxford Univesity Press, 1978