『若きウェルテルの悩み』はドイツの代表的な文豪ゲーテの書簡体小説である。1774年に公刊された。ロマン主義の恋愛小説の古典的名作として世界的に知られている。この記事では、あらすじを紹介する(結末までのネタバレあり)。
『若きウェルテルの悩み』(Die Leiden des jungen Werthers)のあらすじ
物語の舞台は18世紀後半のドイツである。主人公ウェルテルは中流階級の出身である。1771年、よい職を求めて家を出る。そこから旅をし、職をえるなどして、20ヶ月ほどをすごす。その間、ウェルテルは友人のウィルヘルムと手紙のやりとりをする。この手紙を或る編集者が入手し、本として出版する。
『若きウェルテルの悩み』はノンフィクションの悲しい物語だ、と、その編集者は語る。愛と称賛に値するウェルテルの生涯を知ってほしい、と。もちろん、この編集者は実在しない架空の人物である。『若きウェルテルの悩み』はこのような体裁の書簡体小説である。
ウェルテルは或る田舎町にやってくる。この田舎の自然を気に入る。牧歌的な雰囲気を好きになる。当初、ウェルテルは移った先で勉学を勧めるつもりだった。だが、自然の美しさに魅了され、読書を怠るようになる。
ウェルテルは読書による勉学の日々を単調と感じ、それに飽きていた。物憂げな生活だった。だが、美しい自然に囲まれるなかで、そのような生活から解放されたと感じる。
ウェルテルは 家族が経営する屋敷で、地元の人々と親しくなる。子供たちと仲良くなる。ウェルテルはもともと画家になりたいと思っており、その練習も行っていた。地元の子供達の絵を描くなどの交流をもつ。
ウェルテルは当時の中流階級の人達の見方とは異なり、田舎での農民の生活を高く評価するようになる。農民は質素である。自然に近い生活をしている。街に住む人々は農民の生活を野卑だと軽蔑するが、実際には街の生活よりも優れている、と。
ウェルテルはこのように考えるようになると同時に、農民の生活に馴染んでいく。田舎の生活様式や習慣を受け入れ、農民と同じような仕方で話し、ふるまうようになっていく。
だが、ウェルテルはかつてのような街での生活にも未練があり、それをすべて捨て去るつもりはなかった。ある日、近隣のヴァルハイムという町にやってきた。そこでは、これまでの田舎町のような田園の風景があった。ウェルテルはそこで絵を描くようになる。
同時に、コーヒーを飲みながら読書ができるような場所もあった。ウェルテルはこれを求めていた。街と農村の両面を備えたヴァルハイムがウェルテルの気に入った。
ウェルテルはヴァルハイムで、地方判事の美しい娘ロッテと出会う。この出会いがウェルテルの運命を決定づけることになる。ウェルテルはロッテに恋をする。天使のような女性だという。ロッテは実業家アルベルトと婚約している。多くの兄弟姉妹の世話を任されている。
ウェルテルがロッテに会ったのは、田舎の舞踏会に参加したときだった。ウェルテルはロッテがすでに婚約済みであることを聞かされていた。だが、実際にロッテに会うと、恋に落ちた。舞踏会ではロッテとともに踊った。
ウェルテルはロッテにのめり込んでいく。毎日のようにヴァルハイムを訪れる。ロッテが兄弟姉妹の世話をしていたので、それを手伝い、彼らとも仲良くなる。彼らの絵を描くようになる。ヴァルハイムの教会を訪ねたときには、クルミの木立を気に入る。
ロッテは婚約者アルベルトとの婚約を維持しており、ウェルテルとは友人関係を保っている。だがウェルテルはただの友人関係に満足できなくなってくる。ロッテへの嫉妬心が強くなる。ウィルヘルムとの定期的な文通もおろそかになってくる。
ウィルヘルムはウェルテルの恋の病に気づく。その環境から脱し、大使のもとで就職することなどをウェルテルに勧める。ウェルテルはロッテとの関係をこれ以上発展させられないと分かっていながら、恋心に苦しめられる。
ウェルテルはアルベルトと会う。ウェルテルはアルベルトを好人物だと感じた。そのため、やはりロッテのもとを去るべきだと考える。だが、その決心がかえってウェルテルの精神を苦しめた。結局、去ることが到底できないという結論に達する。むしろ、ウェルテルはアルベルトと友人になろうとする。
ウェルテルは次第に自殺に関心を抱くようになる。アルベルトと、自殺は道徳的に許されるかを話し合う。ウェルテルは特定の場合には、自殺が正しい選択肢であり、避けられないものだと訴える。
ウェルテルはウィルヘルムとの手紙のやり取りで、死について語るようになる。躁鬱のような状態が見受けられるようになる。ウィルヘルムは以前のように大使のもとで職を得るよう勧める。ウェルテルはこれを受け入れることにした。
ウェルテルは大使の宮廷で働き始める。当初はうまくいっていた。地元の伯爵と友人になり、貴族の令嬢とよい雰囲気にもなった。ロッテのことを忘れようと努力した。だが、忘れられず、時折、ロッテに手紙を出す。
ウェルテルは宮廷の風習や文化に馴染めなかった。宮廷では、儀礼や威厳が重視される。ウェルテルは中流階級の出身であり、よって貴族ではない。よって、貴族出身の同僚などからは蔑視される。ウェルテル自身は実力主義であり、この身分の違いによる差別を馬鹿らしく思った。
そのため、宮廷での身分に基づく儀礼を軽視するようになった。これが引き金となり、ウェルテルは宮廷での職務を続けられなくなっていく。ロッテがついにアルベルトと結婚したという知らせが届く。ウェルテルは精神的に苦しくなっていき、ついに辞職する。
ウェルテルは軍隊に入ることを勧められうが、断る。どうすべきか思い悩む。結局、ヴァルハイムに戻ろうと決める。かつて自分を癒やしてくれた町に戻ることにしたのだ。
だが、ウェルテルにとって、ヴァルハイムは変わってしまった。教会の美しいクルミの木立が切り倒されていた。ウェルテルの精神は狂気に近づいていく。
ある日、農夫の少年が未亡人を殺害する事件がおきた。その以前にも、この少年は未亡人への強姦という問題を起こしていた。ウェルテルはアルベルトにたいして、この犯人を責めずに、むしろ熱烈に擁護する。アルベルトは衝撃を受け、ウェルテルとの関係を断ち切ろうと決心する。妻ロッテにたいしても、ウェルテルとの絶交を求める。
ロッテは難しい状況に置かれた。ウェルテルにたいし、自制を求め、招待したときだけ訪ねてきてよいと告げる。訪問を制限するという妥協策をとったのだ。ロッテはアルベルトに問題が解決したという。アルベルトは安心して、出張に出かける。
だが、翌日の夜、ウェルテルは予告なしにロッテを訪れる。アルベルトは出張で不在である。ロッテは他の友人を呼ぼうと手配する。その間、ウェルテルは叙事詩『オシアン』の翻訳を朗読する。
この悲哀に満ちた物語に触発され、二人は自分たちの壊れてしまった関係のために涙を流す。ウェルテルはすでに自殺しようと決めていた。ロッテにキスをする。ウェルテルは家を去る。
ウェルテルはウィルヘルムとロッテに手紙を書き残す。アルベルトから借りたピストルで自らを撃つ。 翌日、その傷が原因で死ぬ。
地元の農夫によって埋葬される。