『赤と黒』はフランスの代表的な作家スタンダールの小説。1830年に公刊された。当時のフランス王政復古期を題材としたリアリズム小説であり、風刺小説としても知られる。近代フランスの古典的名作である。この記事では、あらすじを紹介する(結末までのネタバレあり)。
『赤と黒』(Le Rouge et le Noir)のあらすじ
舞台は王政復古期(1815−1830)のフランスである。その背景として、フランスは1789年にフランス革命を経験した。旧来の王制が打倒され、共和制に変わった。その最中に、ナポレオン・ボナパルトが軍人として台頭し、一躍出世していった。
ついに皇帝となり、フランスを帝政に移行させた。だが、ロシアとの戦いに敗れ、再起を図った後にも1815年のワーテルローの戦いに敗れ、散った。フランスは王制に戻った。これが王政復古である。
『赤と黒』の主人公ジュリアン・ソレルは大工の息子であり、身分の低い青年である。フランシュ・コンテ地方の町ヴェリエールに住んでいる。ソレルは野心家であり、ナポレオンの崇拝者である。ナポレオンの処世術を模範にして出世しようとしている。
だが、王政復古の時代、ナポレオンと同様の軍人という道で出世するのは非常に困難に思われた。そのため、当時の野心的な人々と同様に、聖職者の道で出世しようと決める。いつか首都のパリで貴族にのしあがろうと夢見るのだった。
ソレルは司祭になるために勉学に励む。実際には立身出世のためであるが、敬虔なキリスト教徒であるかのように振る舞う。
その頃、ソレルはヴェリエールの市長レナルによって、彼の子供の家庭教師として雇われる。ソレルはこれを出世の第一歩として利用しようとする。ソレルは頭脳明晰であり、学業の成績はよかった。そのため、家庭教師としての仕事をうまくやりこなす。
レナル夫人がソレルに恋をする。それを知り、ソレルはこの恋を利用しようとする。二人は恋仲になる。レナル夫人はソレルのために名誉職を確保するなど、できることをしてやろうとする。
二人が恋仲にあるという噂を夫のレナルが知る。レナルは動揺する。レナル夫人はこれが嘘だとレナルを説得する。噂の張本人は、レナルの政敵のヴァレルである。ヴァレルがレナルを陥れるために、このようなスキャンダルの噂をでっちあげたのだ、と。レナルは納得する。
レナル家の召使もまたソレルに恋をしていた。ソレルに言い寄るが、失敗する。そこで、ソレルの上司で司祭のシェランに、ソレルとレナル夫人の不倫を密告する。シェランはスキャンダルが広がるのを避けるために、ソレルをブサンソンの神学校に移す。そのため、レナル夫人とは離れ離れになる。
ソレルは神学校で優れた成績をおさめる。敬虔な信者としてふるまい続け、周りからもそう思われる。だが、その学業の優秀さゆえに、嫉妬される。
神学校の校長のピラール神父は次第にジュリアンを気に入るようになる。ソレルのために奨学金も確保する。
その頃、パリのラ・モール侯爵はピラールを秘書に雇いたいと打診していた。だが、ピラールは自身のかわりに、優秀なソレルを秘書として推薦する。ラ・モールはこれを受け入れる。かくして、ソレルはついにパリ行きが決まる。
パリに行く前に、ある夜、ソレルはレナル夫人に会いに行く。レナル夫人は当初、ソレルを拒絶した。だが、ソレルのパリ行きと、もう二度と会わないという言葉で、レナル夫人の態度が変わる。二人の時間を過ごすことになる。
ソレルはパリに移り、ラ・モール公爵の秘書となる。ようやく、ここまでやってきた。だが、王政復古期のパリは、身分制の厳しい社会だった。職人の出身のソレルを、パリの貴族たちは蔑視し、厳しい態度をとる。
ソレルは秘書として優秀な働きをする。ラ・モール侯爵に実力を認められ、積極的に育成されていく。だが、ソレルは上流身分の出身でないため、サロンなどでの適切な儀礼や社交術を身に着けていない。これはソレルが貴族らに嘲笑される理由の一つとなった。同時に、ソレルはサロンなどの貴族の社交の場が不毛で馬鹿らしいと述べるようになる。
ラ・モール侯爵の娘マチルドもまた、サロンに飽き飽きしていた。ソレルのサロン批判を聞いて、ソレルに興味を持つ。ソレルもまたマチルドに興味をもつ。
ソレルは舞踏会などを馬鹿らしいと思いつつも、職務として参加する。だが、時には、自由主義の貴族と知り合うこともあり、そこから影響を受けることもあった。
マチルドはソレルに恋をする。ソレルを誘惑する。ソレルは半信半疑のまま、これに応じ、二人は結ばれる。だが、マチルドの心は固まっていなかった。ソレルが卑しい身分の出身者であることに煩悶する。また、ソレルという男性を恋人にしたことを、妥協だと感じ、後悔する。
ソレルはマチルドを求めるようになっていた。だが、マチルドはむしろ距離をとるようにする。駆け引きの後、二人は再び結ばれる。だがマチルドは再び後悔する。
この頃、ラ・モール伯爵はソレルに危険な任務を与え、ロンドンに派遣する。これに成功する。帰国の際に、ストラスブールに寄る。そこでとある人物に恋愛のテクニックを学び、それをマチルドに実践する。これが成功し、ソレルはマチルドの心をつかむ。
マチルドはソレルの子どもを妊娠する。これを知り、ラ・モール侯爵は激怒する。だが、怒りがしずまり、むしろソレルを出世させることにする。ソレルをマチルドにふさわしい結婚相手にするためである。その結果、ソレルはついに爵位をえる。すなわち、念願の貴族になった。
だが、ラ・モール侯爵は二人の結婚に反対するようになる。原因は、レナル夫人がラ・モール侯爵に送った手紙である。そこでは、ソレルが出世のためだけに女性を誘惑し、用済みとなれば女性を捨てる冷酷な人物だと記されていた。
ソレルは破断の理由がこの手紙にあると知る。急いでヴェリエールに向かう。教会でミサに出席していたレナル夫人を銃殺しようとし、発砲する。レナル夫人は一命を取り留める。
ソレルは逮捕され、投獄される。裁判を待っている。マチルドはソレルの罪を軽くできないか賄賂で交渉しようとする。だが、ソレルは牢屋の中で、自分がレナル夫人をまだ愛していることに気づく。マチルドへの愛は消えていた。
裁判では、ソレルは自身が殺人未遂ではなく、身分を越えようとしたので裁かれようとしていると訴える。レナル夫人は裁判で証言を求められたが、拒否する。レナル夫人もまたソレルをまだ愛していたからだった。証言の拒否によって、ソレルを罰から救おうとする。
だが、死刑の判決が下る。死刑を待つ日々で、レナル夫人はソレルのもとを尋ねる。ソレルはギロチンで処刑される。レナル夫人は数日後、悲しみにくれて亡くなる。マチルドはソレルの切断された首を自ら埋葬する。