『人間嫌い』は17世紀フランスの代表的な劇作家モリエールの喜劇作品である。モリエールの作品のなかでも特に完成度が高いと評されている。1666年に初演された、フランス宮廷社会を風刺する作品である。フランスの古典的名作として有名である。この記事では、そのあらすじを紹介する 。
『人間嫌い』(Le misanthrope)のあらすじ
舞台はフランス貴族の邸宅である。主人公は貴族のアルセストであり、セリメーヌを恋人としている。アルセストはセリメーヌの邸宅で、友人のフィラントと会話する。アルセストは実直な人間である。フランス社会にいかに偽善や腐敗が広まっているかを嘆く。人間には誠実さや正直さが必要だと訴える。
これにたいし、フィラントは正直さも大事ではあると認める。だが、社会においては、正直さと礼儀正しさのバランスが必要だと反論する。ときには、思ったことを正直に言うことで相手を傷つけるより、お世辞を言ったほうがよい。
というのも、人には欠点があるものであり、それは許容されるべきだから、と。この冒頭の会話がこの劇の性格を反映している。
そこに、貴族のオロントがゆってくる。オロントはアルセストに、友人になろうと提案する。アルセストはそうするかを決める前に、まず互いのことを知るべきだと言う。そこで、オロントは自作の詩を批評してくれるようアルセストに依頼する。フィラントはその詩についてお世辞を言う。アルセストは同意する。
オロントには、詩人になるのを諦めて、別の仕事をしたほうがいいと、アルセストは素直に述べる。フィラントには、お世辞を叱責する。オロントは侮辱されたと感じ、怒りながら立ち去る。
そこに、アルセストの恋人のセリメーヌがやってくる。セリメーヌは社交好きであり、多くの男性に求婚されていた。アルセストがセリメーヌの行動を非難する。だが、セリメーヌはアルセストが本命であるという。それ以外の男たちとの交流は無害な戯れにすぎないものだ、と。
召使がやってきて、アカストとクリタンドルという求婚者の到来を告げる。アルセストは怒り、セリメーヌに別れるぞという。だが、実際に別れるつもりはない。
セリメーヌと従妹のエリアント、そしてアカストとクリタンドルが宮廷の人々について噂話を始める。セリメーヌが彼らについて厳しい批判を加えると、聞き手たちは感嘆する。アルセストは離れたところでそれを聞いていたが、「偽善だ」と遠くから叫ぶ。だが、これは無視される。
エリアントはアルセストの行動を異常だという。恋する女性については、称賛するのが普通であるのに、アルセストはその逆だ、と。
上述のオロントがアルセストに自作の詩で侮辱されたという訴訟を起こす。その一報がアルセストらのもとに届く。アルセストはこれに対処すべく、席を外す。
アカストとクリタンドルは二人きりになり、セリメーヌへの求婚について話し合う。アカストは自分の富や外見のよさなどを自慢する。だが、セリメーヌが自分に惹かれていないと認め、落胆する。二人は一方がセリメーヌへの求婚に失敗したなら、他方のセリメーヌへの求婚を支援すると約束し合う。
年配女性のアルシノエがやってくる。セリメーヌの浮気性の行動が宮廷で話題になっていたと告げる。アルシノエは宮廷ではセリメーヌを弁護したという。だが、今後はそのような行動を慎むように、とセリメーヌに忠告する。
しかし、セリメーヌは素直にこれを聞き入れない。むしろ、アルシノエの高慢さが宮廷の人々の話題になっていた、とやり返す。それは歳のせいかも知れない、とも。これがアルシノエを怒らせる。
そこにアルセストがやってくる。アルシノエはアルセストの誠実さを高く評価していた。そこで、アルセストを宮廷で出世させてあげようと、アルセストに提案する。だが、アルセストは宮廷生活をあまり評価していないので、乗り気ではない。
そこでアルシノエは、セリメーヌが不貞を働いていることを証明するような手紙を持っていると、アルセストに告げる。アルセストはこれ拠を自分で確かめるために、アルシノエと共に去る。
フィラントとエリアントはアルセストについて話し合う。フィラントはあるセストの無礼さや強情さを批判する。だが、エリアントはアルセストが誠実さの価値観を貫くのを擁護する。
二人はアルセストとセリメーヌの関係についても話し合う。エリアントは、セリメーヌが誰を愛してるのかを自分でもよくわかっていないという。アルセストが別れようとするなら、アルセストを求婚者として受け入れるだろう、と。
このタイミングで、アルセストが戻ってくる。上述のアルシノエの手紙を読んで、セリメーヌが不貞行為を働いていたと信じた。そのため、セリメーヌに復讐しようと考える。アルセストはエリアントにたいし、男女の関係になろうと提案する。エリアントは自棄を起こさないよう、アルセストをなだめる。
フィラントとエリアントが退場し、セリメーヌが入ってくる。アルセストは手紙を根拠に、セリメーヌに不貞行為を叱責する。セリメーヌはアルセストが手紙を信用したのを愚かな行為だと反論する。
アルセストは、その手紙が女性宛てのものだったと認めるよう、セリメーヌに求める。セリメーヌはこれを拒否する。アルセストはますます怒る。
そこに、アルセストの召使いがやってくる。アルセストが訴訟に敗れ、逮捕される危険がある。よって、すぐに逃げよ、と。アルセストは事態を調べるために、移動する。
アルセストはフィラントに出会う。フィラントは控訴するよう、アルセストに提案する。だが、アルセストはこの判決を人間の腐敗の象徴であるとして世に知らしめたいといい、その提案を拒否する。
そのかわりに、アルセストはこの社会から離れ、隠居すると宣言する。そのために、セリメーヌを伴おうとする。
物語は終幕に向かう。アルセストとオロントがセリメーヌに求婚する。さらに、アカストとクリタンドルがやってきて、セリメーヌの書いた手紙を持参する。アルシノエとフィラントもやってきて、その手紙を読み上げる。
そこには、それぞれの求婚者が侮辱されていた。そのため、求婚者たちはセリメーヌへの求婚をやめる。
アルセストだけが求婚者として残った。セリメーヌに求婚すると同時に、一緒に隠居することを求める。だが、セリメーヌは自分が若すぎるとして当惑する。結婚には同意する。だが、社交界から去ることは考えられず、一緒に隠居するのを拒否する。
アルセストはついにセリメーヌとの関係を捨てる。アルセストは隠居しようと立ち去る。エリアントとフィラントは彼に考え直すよう説得すべく、その後を追う。
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おすすめ参考文献
モリエール『人間嫌い』内藤濯訳, 新潮社, 1952
※モリエールの生涯と作品については、「モリエール」の記事を参照