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シェイクスピアの『ヘンリー6世』:百年戦争から薔薇戦争への物語

 『ヘンリー6世』はイギリスの代表的な劇作家シェイクスピアの歴史劇。三部で構成される。『ヘンリー5世』の続編ともいえる。
 第一部では、ヘンリー6世がまだ幼い時期を描く。イギリスとフランスの百年戦争末期を扱っており、あのジャンヌ・ダルクがフランス側で登場する。シェイクスピアはジャンヌをどう描いたのか。

シェイクスピアの『ヘンリー6世 第一部』(Henry VI Part 1)のあらすじ

 舞台は15世紀前半のイギリスである。ヘンリー5世が没し、壮大な葬儀が営まれる。ヘンリー6世がイギリス王となっているが、まだ幼い。そのため、ヘンリー5世の弟のグロスターが摂政を担う。
 フランスからイギリスの宮廷に、悪い知らせが届く。イギリスとフランスは百寝戦争のさなかにある。ヘンリー5世の時代、イギリスが優位に合った。だが、フランスのシャルルが王になり、巻き返しを図るのに成功しつつある。
 フランスのオルレアンでは、イギリスの名将タルボットがオルレアンの包囲戦を行っている。だが、タルボット自体はフランス軍の捕虜になる。それでも、イギリス軍がオルレアンを陥落させようとしていた。
 そこに、あのジャンヌ・ダルクがオルレアンをイギリス軍から解放すべく、到来する。シャルルはジャンヌを信頼し、参戦させる。タルボットは、捕虜となっていたフランス貴族と交換され、釈放される。
 オルレアンでは、タルボットはジャンヌらのフランス軍と戦う。タルボットはジャンヌ・ダルクと一騎打ちする。ジャンヌが勝利する。だが、ジャンヌはタルボットが今死ぬべきでないとして、見逃してやる。
 ジャンヌはオルレアンの解放に成功する。フランス貴族らはそれを祝う。だが、タルボットが奇襲に成功し、オルレアンを取り返す。
 オーヴェルニュ伯爵夫人がタルボットをわなにかけようとして、邸宅に招待する。タルボットは招待に応じるが、用心する。夫人がわなを実行しようとするが、タルボットは自身の兵士を呼び寄せ、それを回避する。
 その頃、イギリスの宮廷では、内紛が生じる。上述のグロスターが幼い王ヘンリー6世から実権を奪おうとしているとして、反対勢力が現れる。後者はヘンリー6世の大叔父のウィンチェスターが中心である。グロスターのグループとの争いが芽生える。
 さらに、イギリス貴族の間でも対立が深まっていく。特に、プランタジネット家とサマセット家の貴族が争いの2つの中心となる。これら2つの貴族は、自分たちの味方になるものたちにたいし、それぞれ白い薔薇か赤い薔薇をとるよう促す。
 そう、ここからのちの薔薇戦争が生じることになる。その火種が生じていく。ウォリックはプランタジネット家 の白薔薇を選び、サマセットはランカスター家の赤薔薇を選ぶ。
 グロスターとウィンチェスターの対立が深まる。ヘンリー6世はそれを聞いて、彼らのもとにやってくる。現在はフランスとの戦争中である。グロスターらの内紛はこの戦争に悪影響を与え、イギリスの敗北を導くだろう。よって、対立をやめよ。ヘンリーはそう説得する。
 グロスターらは繰り返し説得され、和解する。
グロスターはヘンリーに、フランスに行って戦争を終わらせるよう促す。ヘンリーは同意し、出発の準備をする。
 他方、上述のウォリックはプランタジネットの父の称号を継承したいとヘンリーに申し出る。これが認められ、ヨーク公と呼ばれるようになる。
 ジャンヌは軍隊を率いてルーアンに向かい、タルボットと戦う。一度はこれに成功する。しかし、次の戦いで、フランス王シャルルとともに逃亡を余儀なくされる。
 ヘンリーがパリに到来する。自身がフランスの王であるとアピールするために、フランス王としての戴冠式をおこなう。
 このとき、ヘンリーはサマセットとヨークの対立が深まっていることを知る。彼らはヘンリーを味方にしようとする。ヘンリーはフランスとの戦争中なので、和解するよう彼らに求める。両者をともに信頼しているといいながら、サマセットの赤薔薇を選ぶ。
 そのうえ、ヘンリーは彼らにもフランスとの戦争に参加させる。タルボットはブルゴーニュ攻略を開始する。だが、フランス軍が優勢だった。サマセットとヨークは援軍を要請される。だが、サマセットとヨークはそれまでの対立が響いていたので、互いに援軍を出そうとしない。
 その結果、タルボットの軍は窮地に陥る。タルボットの息子がこの最初の戦いで殺される。タルボット自身も大きな傷をおって、敗北する。サマセットとヨークはこの失敗の責任をなすりつけあう。
 ジャンヌらのフランス軍はタルボットに和平交渉をもちかける。教皇が両国の和平交渉を推進する。その頃、フランスの貧しい貴族の娘マーガレットとヘンリー6世の縁談話がでてくる。

 サマセットとヨークは挽回のために、ともに協力して戦う。ジャンヌは精霊を呼び出して助言を得ようとするが、失敗する。ジャンヌは彼らとの戦いで敗れ、ついに捕らえられる。
 ヨークらはジャンヌの裁判を行う。ジャンヌは自身を処刑しないよう説得を試みる。自分は処女で純潔なので、処刑すれば神が罰を下すだろう、などと論じる。だが、ヨークは火あぶりの刑を命じる。
 イギリスとフランスの和平交渉が進められる。シャルルはイギリスとの和平を結ぶよう説得される。
 他方、マーガレットとヘンリーの縁談話が進められる。グロスターはヘンリーがすでに、フランスとの和平のために、シャルルの親類の娘と婚約していると進言する。
 だが、ヘンリーはマーガレットとの結婚を決める。マーガレットは実のところ、彼女をヘンリーに推薦したイギリス貴族サフォークの愛人であった。サフォークはマーガレットを通して、ヘンリー6世を操縦しようとすることになる。

サフォークとマーガレット

シェイクスピアの『ヘンリー6世 第二部』(Henry VI Part 2)のあらすじ

 ヘンリーの新たな妻マーガレットがフランスからイギリスに到着する。そのかわりに、イギリスはフランスのアンジューなどをフランスに戻すという契約が結ばれる。グロスターはそれを知り、怒り悲しむ。ヘンリー5世らの苦労が水の泡になったためだ。
 イギリスの宮廷では、様々な陰謀がうずまく。グロスターはあいかわらず国家の要職についていた。諸侯は彼をその地位から追放し、自らその地位につこうとする。他方。ヨークは自らがヘンリー6世のかわりにイギリス王になろうと決意する。だが、まだ準備が整っていないので、それを公言しない。 
 グロスターの妻は自分たちの命運に不安を抱き、魔女を呼び寄せ、占ってもらうことにする。これが後に大きな問題となる。
 他方で、マーガレットとその愛人サフォークもまた王位を実質的に狙っている。
 その頃、宮廷では、誰をフランスでのイギリス領の統治者として派遣すべきかが話し合われている。ヨークかサマセットかで割れる。グロスターがこれについて決めようとすると、マーガレットが反発する。結局、サマセットが選ばれる。
 その後、グロスターの妻が魔女を呼び寄せ、魔術で占ってもらう。そこに、ヨークやサマセットがやってくる。魔術に手を出したとして、彼女を逮捕する。
 ヘンリーはマーガレットやグロスター、サフォークらとともに、狩りに出かける。その際に、グロスターの妻が逮捕されたという知らせを聞く。グロスターは妻のそのような行動を嘆く。妻は裁判にかけられることになる。
 その後、ヨークはイギリス王権の奪取という計画を進める。味方をえるべく、ソールズベリーとウォリックに自身の家系図を示す。自身がかつてのイギリス王リチャード2世の政党な後継者だと示し、彼らを味方につけるのに成功する。

 グロスターの妻は裁かれ、追放刑に処される。より重要なことに、妻のこのような罪のために、グロスターがそれまでの要職を解かれる。諸侯の陰謀はまだ続くことになる。
 グロスターは追放前の妻から、諸侯がグロスターを逮捕しようとしていると警告される。だが、グロスターは意に介さない。妻と最後の別れをする。
 ヘンリーが諸侯の会議を開く。サマセットはフランスでのイギリス領がすべて失われたと報告する。グロスターが遅れて到着する。マーガレットとサフォーク、ヨークらがグロスターの追放を画策する。
 サフォークがついに反逆罪でグロスターの逮捕に踏み切る。ヘンリーはこれを抑え込むことができない。裁判で無実を明らかにするよう、グロスターに言う。
 その頃、アイルランドで反乱が起こる。ヨークが反乱鎮圧のために派遣される。ヨークはアイルランドへ向かう。だが、彼自身のイギリス王権奪取の計画に着手する。
 てはじめに、ヨークは民衆の反応が知りたいと思った。もしヨークがイギリス王だと公言したとして、民衆が彼を支持するのかどうか。
 そこで、ヨークはアイルランドでケイドを雇い、イギリスへと進軍させることにする。ケイドがイギリスで、イギリス王になるべきヨーク家のための戦いを宣言するよう、手配する。
 その頃、サフォークがグロスターを暗殺する。ヘンリーはグロスターの裁判を手配しようとする。だが、彼が殺されていることを知る。ウォリックらがサフォークの関与を疑い、彼に問い詰める。
 サフォークへの厳罰を求める声が高まる。マーガレットは彼を弁護する。だが、ヘンリーはサフォークの追放令を決める。マーガレットとサフォークは二人きりになり、別れを悲しむ。
 サフォークは追放刑に処される。海上を移動中に、船が海賊に襲われる。サフォークは捕らえられる。命乞いをせず、海賊に殺される。マーガレットはそれを知り、悲しむ。
 他方、上述のヨークに雇われたケイドがイギリスで反乱を起こす。労働者たちを引き連れて、ロンドンに向けて進軍する。ヘンリーは鎮圧軍を送るが、敗れる。
 ケイドの反乱軍はついにロンドンに到着し、町を選挙する。バッキンガムらがそこにやってきて、反乱軍に反乱をやめるよう説得する。かつてのヘンリー5世の偉業を思い起こさせる。反乱軍は納得し戦うのをやめる。
 ケイドは事態が急転したことに気づき、逃亡する。だが、逃亡中に農園に入り、そこで農園主に殺される。
 ヨークがアイルランドからロンドンに軍を率いて戻って来る。バッキンガムがヨークに対峙し、要求を尋ねる。ヨークはサマセットが反逆者なので、追放せよと要求する。バッキンガムは要求に応じるといい、軍を解散させる。
 だが、サマセットは釈放され、ヘンリーのもとにいく。そこにヨークがやってくる。サマセットが解放されているのを見て、ヨークは憤慨する。ついに、ヨークは自身こそイギリスの正統な王だと宣言し、ヘンリーとの対決を明言する。
 イギリスの諸侯はヘンリーかヨークのどちらかにつく。ソールズベリーとウォリックはヨークへの忠誠を宣言する。バッキンガムとクリフォードはヘンリーに従う。
 両軍がセント・オールバンズで戦う。ヨークが勝利する。クリフォードとサマセットは殺される。ヘンリーはマーガレットとともにロンドンへ逃げる。ウォリックとソールズベリーはヨークをイギリスの国王だと宣言する。

シェイクスピアの『リチャード6世 第三部』(Richard VI Part 3)のあらすじ

 赤薔薇のヘンリー6世と白薔薇のヨークが戦いに至る。両者は宮廷の玉座で再会する。
 ヨーク公が玉座についていると、ヘンリーがやってくる。ヨークに、そこから降りるよう求める。。ヨークは拒否する。二人は自身の王権への主張をめぐって、言い争う。
 ヘンリーが折れて、ヨークにこう提案する。ヘンリーが死んだら、息子のエドワード王子に王権を相続させずに、ヨークに譲る。それまでは、自分に王権を認めてほしい、と。ヨークは同意し、立ち去る。ヘンリーのこのような提案に、ヘンリー側の諸侯は驚く。
 そこに、ヘンリーの妻マーガレットがやってくる。事態を把握して、激怒する。ヘンリーを父親失格だと非難する。マーガレットはエドワード王子に王権を継承させるべく、ヨークの征伐に向かう。
 その頃、ヨークは息子のリチャードやエドワードらによって、戦いでヘンリーを王位から引きずり下ろすべきだと説得される。ヨークは納得する。
 マーガレットとクリフォードの軍隊がヨーク軍との戦いを開始する。マーガレット軍が勝利し、ヨークを捕らえる。ヨークを嘲笑した後、殺害する。

 ヨークの息子エドワードとリチャードのもとに、父が殺されたという知らせが届く。二人は落胆する。ヨークの3人目の息子ジョージがウォリックとともに、マーガレット軍との戦いの準備を進める。
 その頃、マーガレットはクリフォードとともに、ヘンリーを訪れる。ヘンリーに息子の王位継承権を認めるよう説得を試みる。だが、ヘンリーはこれを拒否する。
 そこに、ヨーク家の(上述の)エドワードらがやってくる。両陣営は罵り合う。互いの主張をぶつけあうが、なにも生まれない。結局は、戦場で決着をつけようということになる。
 両軍が戦う。マーガレット軍のクリフォードが戦死する。ヘンリーは戦いの様子を遠くからみている。ある兵士が戦場で戦利品をあさっている。その最中に、負傷した父親をそれと知らずに殺してしまう。別の兵士は、息子をそれと知らずに殺す。ヘンリーはこのような内戦を憂う。
 ヨークのエドワード軍が戦いに勝利する(エドワードは新たなヨーク公になっている)。ヘンリーは逃亡中に捕らえられる。ヨークのエドワードは弟のリチャードやジョージとともに、ロンドンに向かう。
 エドワードは自身がイギリス王だと宣言する。王権の基盤を固めるために、フランス王の妹との結婚を望む。その交渉のために、ウォリックをフランスに派遣する。
 その頃、敗北したマーガレットはフランス王の支援を得るために、フランスへ向かう。
 ヨークのエドワードはグレイ婦人と会見し、気にいる。フランス王の妹との縁談を進めているのに、グレイ婦人との結婚を決める。これを聞いて、リチャードとジョージは身勝手だと考え、憤る。リチャードはひそかに、自らがイギリス王になろうと決める。
 ウォリックとマーガレットがそれぞれフランスの宮廷を訪れる。フランス王はヨークの勝利を聞き、マーガレットの支援の要請を拒否する。ヨークのエドワードと妹の結婚を認める。
 そこに、エドワードとグレイ婦人の結婚のニュースが届く。フランス王は考えを改め、マーガレットの支援を決める。ウォリックは恥をかかされたと感じる。名誉を傷つけられたので、マーガレット軍に寝返る。
 ジョージはエドワードの身勝手な結婚が許せない。そこに、ウォリックがマーガレットに寝返ったという知らせが届く。ジョージもまたマーガレット軍に寝返ると決める。
 エドワードはジョージとウォリックの離反を知り、うろたえる。ジョージらとの戦いを避け、イギリス王権への主張を取り下げる。屋敷に幽閉されることに同意し、幽閉される。だが、リチャードがエドワードをそこから脱出させる。
 ヨークのエドワード軍とマーガレット軍(ウォリックとジョージも)が戦う。エドワード軍がヘンリー6世をロンドン塔に投獄する。エドワード軍がマーガレットのウィリック軍を撃破し、ウォリックを殺す。ジョージはエドワード軍に戻る。
 エドワード軍はマーガレット軍にも勝利する。マーガレットの息子エドワード王子が殺される。マーガレットは悲嘆に暮れ、殺してほしいと訴える。だが、捕らえられ、追放に処される。
 エドワードは勝利を祝す。その頃、リチャードはひそかにロンドン塔でヘンリー6世を殺す。次なる計画は、自らが王になることである。『リチャード3世』に続く。

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シェイクスピア『ヘンリー6世 第一部』小田島雄志訳、白水社、1983年

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