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シェイクスピアとは:その生涯と全作品のあらすじの紹介

 ウィリアム・シェイクスピアは16世紀後半からイギリスで活躍した劇作家や詩人(1564ー1616)。今日においてもなお世界中で人気のある作品を数多く夜に出した。「ロミオとジュリエット」や「ハムレット」など、誰しも一度は聞いたことがあるだろう。

シェイクスピア(William Shakespeare)の生涯

 シェイクスピアはイギリスのストラトフォード・アポン・エイボンで、裕福な商人・職人の家庭に生まれた。母は豊かな農家の出身だった。シェイクスピアの幼い頃、父は町長に選ばれた。だが、その後、一家は没落していった。シェイクスピアは地元のグラマー・スクールで学んだが、大学には通わなかった。

 18歳のとき、シェイクスピアは年上のアン・ハサウェイと結婚した。三人の子どもが生まれる。その後、シェイクスピアはロンドンに移った。だが、この過渡期についてはよくわかっていない。

 劇作家としての活躍

 ロンドンでは、シェイクスピアは役者として活動を開始したようだ。1590年頃に、劇作を開始した。1592年頃には、シェイクスピアは名声を得た。処女作は薔薇戦争を扱った『ヘンリー6世』である。

初期の悲劇作品

 シェイクスピアは『リア王』などの四大悲劇で有名である。とはいえ、彼の最初の悲劇作品はイギリスの王侯をモデルにしたものだった。すなわち、『ヘンリー6世』や『リチャード3世』などである。
 なぜ王の歴史を悲劇として制作したのか。それは当時のイギリスのエリザベス朝のルネサンス文化に起因している。この時期のイギリスでは、国民的アイデンティティを形成する手段として、人文主義的な俗語の文学が魅力的であった。

 その際に、かつての偉大な王が着目され、重みのあるテーマに基づいた歴史記述が好まれた。そのため、これを戯曲とする場合に、悲劇として制作された。シェイクスピア以外にも、同様の悲劇が同時期に制作されていた。

 名声の確立:ロード・チェンバレンズ・メン

 シェイクスピアは喜劇や笑劇も制作していった。『じゃじゃ馬馴らし』などが有名である。
 1592年、ペストがロンドンを襲った。その結果、劇場が閉鎖された。1594年、ロンドンはペストから回復し、劇場が再開された。多くの劇団は再編を行った。
 その一環で、ロード・チェンバレンズ・メンという劇団が誕生した。シェイクスピアはその創設メンバーとなり、劇作家として活躍した。毎年2本程度の制作した。この劇団はローバート・バーベイジのような優れた役者が所属していた。宮内大臣が後援する劇団だった。

 ロード・チェンバレンズ・メンで、シェイクスピアは代表作を次々と生み出していった。『ロミオとジュリエット』や『真夏の夜の夢』、『ヴェニスの商人』や『お気に召すまま』などである。

 劇団が名声を高めていき、シェイクスピアも同様だった。大きな財産をなし、1597年には故郷のストラトフォード・アポン・エイボンに大きな邸宅を購入した。その後も、故郷の広大な土地を購入した。ロンドンと故郷を行き来していたようだ。
 1599年には、ロード・チェンバレンズ・メンはグローブ座を本拠地とした。

 1590年代には、詩を公刊した。シェイクスピアの最初の公刊物はむしろ詩だった。1593年の『ヴィーナスとアドニス』と『ルクレティウスの陵辱』であり、イギリスの貴族に献呈されている。この時期にはすでにこれらの貴族と交流をもっていたことがうかがわれる。

 セネカの悲劇からの影響

 シェイクスピアの作品には、古代ローマの哲学者セネカの影響がみられる。セネカは暴君ネロの教育者であり、そのもとで活躍した政治家でもある。ストア主義の哲学者としても知られる。同時に、比較的知られていないが、悲劇作品を多く制作していた。この悲劇作品がシェイクスピアに一定の影響を与えたことが知られている。

 そもそも、セネカの悲劇はルネサンスの演劇に14世紀頃には受け入れられていた。ラテン語で読まれ、模倣された。
 その後、セネカの悲劇はイギリスのルネサンスでも同様に浸透した。1581年にトーマス・ニュートンがセネカの悲劇作品集を英訳して公刊した。この時期のイギリスはセネカの悲劇を関心を抱いただけでなく、演劇の多くの特徴はセネカの悲劇の影響を受けている。

 たとえば、5幕構成であることや、スティコミーティア(1つの行が前の行の単語を拾って、別の意味で使用する言葉の掛け合い)や辛辣な格言の使用、幽霊や夢、不吉な呪いといった祟りへの嗜好がそうである。
 シェイクスピアでいえば、初期の悲劇作品『リチャード三世』におけるセネカの影響は直接的で深い。そこでのクラレンスの夢はセネカの『ヘラクレス・フレンス』と『ヘラクレス・オエタイオス』に部分的に由来する。

 あるいは、主人公リチャードと女性の登場人物との関わり合いはセネカの『トロデース』に起源を持つ。特に影響が顕著なのは、自分の罪の意識に怯えた、分断された自己の描写である。リチャードは自分の罪を皮肉たっぷりに喜び、絶望的な自己嫌悪へと変わっていく。

 四大悲劇の時代

 1603年、エリザベス女王が没し、ジェームズ1世が新たにイギリス王に即位した。シェイクスピアの劇団ロード・チェンバレンズ・メンは王の庇護のもとに入ることになった。そのため、キングズ・メンに改称された

 この時期に、シェイクスピアはいわゆる四大悲劇を世に送り出した。『ハムレット』、『オセロ』、『リア王』、『マクベス』である。この時期は悲劇時代と呼ばれることもある。

 晩年

 1610年頃から、顧客の変化などに応じて、シェイクスピアの作風はロマンス劇と呼ばれるものに変わった。『冬の夜話』や『テンペスト』がそうである。20年間ほど、ロード・チェンバレンズ・メンそしてキングズ・メンで劇作家として活躍し、引退した。1616年に没した。

 シェイクスピアの作品を年代順に紹介(推定年代)

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1、ヘンリー6世 第一部 ”Henry VI Part I” (1589–1590)

2,ヘンリー6世 第二部 ”Henry VI Part II” (1590–1591)

3,ヘンリー6世 第三部 ”Henry VI Part III” (1590–1591)

→イギリス国王ヘンリー6世の歴史劇。ヘンリー5世を引き継いだ後の不安定な時代を描く。あの有名なフランスのジャンヌ・ダルクもでてくる。ヘンリー6世の三作品とも、こちらへ

4,リチャード3世 ”Richard III” (1592–1593)

→中世イギリスの薔薇戦争末期、リチャード3世は同家の国王を殺して王位を奪った。これが薔薇戦争の勢力図に大きな変化をもたらす。リチャード3世の運命はいかに・・・。

5,間違いの喜劇 ”The Comedy of Errors” (1592–1593)

→船の難破事故で生き別れになった二組の双子たち。彼らがたまたま同じ町で入れ違いになり、周囲の人たちを混乱させる。商品を渡したはずなのに、受け取っていないとか。ついには警察沙汰になり、最後には・・・。

6,タイタス・アンドロニカス ”Titus Andronicus” (1593–1594)

→ 古代ローマの将軍タイタス・アンドロニカスはゴート族との戦争で勝利し、女王やムーア人などを捕虜として連れ帰る。彼らがタイタスへの復讐をしかけ、タイタスと子どもたちが残忍な仕打ちにあう。シェイクスピア作品の中でも、群を抜いて残酷な物語。

7,じゃじゃ馬ならし ”The Taming of the Shrew” (1593–1594)

→ パドヴァの資産家の家に、二人の年頃の姉妹がいる。気性の荒い姉と人当たりのよい妹である。姉には金目当ての男が、妹には多くの男性が求婚する。いつの間にか、姉のほうが妹よりも、パートナーに対して従順になっている。はたして、金目当ての男が姉にしたこととは・・・。

8,ヴェローナの二紳士 ”The Two Gentlemen of Verona” (1594–1595)

→ヴェローナの二人の紳士は親友だ。一人がミラノへ旅立つ。もう一人は恋人のためにヴェローナに留まろうとするが、まもなくミラノへ旅立つ。二人の紳士はミラノ公爵の娘に恋する。すでに恋人のいる紳士は、彼女への愛と、親友への友情を犠牲にして、公爵の娘にのめり込んでいく。その果てに待つものとは・・・。

9,恋の骨折り損 ”Love’s Labour’s Lost” (1594–1595)

→スペインのナバラ王が3人の貴族とともに、学問に身を捧げるために、3年間、女性との交流を禁止するという誓いを立てる。まもなく、フランス王女が3人の侍女を引き連れて、外交使節としてナバラ王の宮廷を訪れる。 ナバラ王と3人の貴族はすぐに彼女たちに気を引かれる。彼らの誓いは一体どうなるやら・・・。

10,ロミオとジュリエット ”Romeo and Juliet” (1594–1595)

→誰もが聞いたことのある恋愛の悲劇。イタリアの都市で二つの名家が対立を続けていた。ロミオとジュリエットはそれぞれの名家の子息と子女である。とある舞踏会で名前も知らずに知り合い、恋に落ちる二人。それを認めない名家の現実。若い二人はこれにどう立ち向かうのか。

11,リチャード2世 ”Richard II” (1595–1596)

12,真夏の夜の夢 ”A Midsummer Night’s Dream” (1595–1596)

 ギリシャのアテネで、若い二人が駆け落ちし、森に逃げ込む。友人たちがそれを追いかける。森には、妖精の王の夫妻が喧嘩をしている。これらのカップルが妖精の媚薬で起こす騒動劇とは。

13,ジョン王 ”King John” (1596–1597)

14,ヴェニスの商人 ”The Merchant of Venice” (1596–1597)

 裕福で名望もあるヴェニスの商人アントニオ。友人の結婚式のために、ユダヤ人の高利貸しシャイロックから多額の金を借りる。条件が変わっていた。起源までに返せなければ、アントニオの身体から肉の塊を切り取ってシャイロックに差し出すべし、と。アントニオの商船が航海中に座礁する。借金を返せそうにない。取り立ての裁判が始まる。さぁ、どうする?

15と16,ヘンリー4世 第一部 ”Henry IV Part I” (1597–1598)と第二部 ”Henry IV Part II” (1597–1598)

→ 中世イギリスのヘンリー4世はリチャード2世を打ち倒して、王になった。だが政情は不安定であり、各地で反乱が起こる。息子のハル王子は遊び人として暮らしており、頼りにならなそうだ。だが、反乱鎮圧のためにハル王子を呼び寄せ、反乱に対処しようとする・・。

17,から騒ぎ ”Much Ado About Nothing” (1598–1599)

18,ヘンリー5世 ”Henry V” (1598–1599)

19,ジュリアス・シーザー ”Julius Caesar” (1599–1600)

20,お気に召すまま ”As You Like It” (1599–1600)

 主人公のオーランドは兄と遺産相続でもめており、殺されそうになる。森に逃げ込む。他の貴族の一家でも、揉め事があり、二人の若い娘が森に逃げ込む。それぞれに追手が迫りくる。彼らの運命はいかに。

21、十二夜 ”Twelfth Night” (1599–1600)

22,ハムレット ”Hamlet” (1600–1601)

四大悲劇の一つ。叔父に父を殺害されたデンマークの王子ハムレットによる復讐の物語

23,ウィンザーの陽気な女房たち ”The Merry Wives of Windsor” (1600–1601)

24,トロイラスとクレシダ ”Troilus and Cressida” (1601–1602)

25、終わりよければすべてよし ”All’s Well That Ends Well” (1602–1603)

26,尺には尺を ”Measure for Measure” (1604–1605)

27,オセロ ”Othello” (1604–1605)

 ヴェネチアの将校オセロは恋も仕事も順調である。だが、妬みと恨みを抱く部下の計略にかけられ、次第に運命の歯車が狂っていく。

28,リア王 ”King Lear” (1605–1606)

 四大悲劇の一つ。老齢のリア王は自国の領土を三人の娘に分割しようとする。末娘の態度に腹を立て、追放する。二人の娘だけが相続人となる。だが、二人の娘に冷遇され、リア王の運命は徐々に狂い始める・・・。

29,マクベス ”Macbeth” (1605–1606)

 四大悲劇の一つ。スコットランドの将軍マクベスは3人の魔女の予言に翻弄されて、主君のスコットランド王を暗殺する。その後も恐るべき予言を実行していく。その先に彼を待つ、「予言」された運命とは・・・。

30,アントニーとクレオパトラ ”Antony and Cleopatra” (1606–1607)

31,コリオレイナス ”Coriolanus” (1607–1608)

32,アテネのタイモン ”Timon of Athens” (1607–1608)

33,ペリクリーズ ”Pericles” (1608–1609)

34,シンベリン ”Cymbeline” (1609–1610)

35,冬物語 ”The Winter’s Tale” (1610–1611)

36,テンペスト ”The Tempest” (1611–1612)

 ナポリの王たちが船で或る島の近くを航行中に、嵐に襲われる。彼らはその島へと流され、どうにか一命を取り留める。だが、それは島の住人が仕掛けたものだった。彼はナポリ王たちを嵐(テンペスト)で襲い、この島に漂流させたのだ。彼の目的は一体何なのか。

37,ヘンリー8世 ”Henry VIII” (1612–1613)

38,二人の貴公子 ”The Two Noble Kinsmen” (1612–1613)

シェイクスピアの肖像画

シェイクスピアの主な作品

『ヘンリー6世』 (1590ー92)
『リチャード3世』 (1593)
『じゃじゃ馬ならし』 (1594)
『ロミオとジュリエット』 (1595)
『真夏の夜の夢』(1595)
『リチャード2世』(1595)
『ヴェニスの商人』(1596)
『ヘンリー4世』(1597)
『お気に召すまま』 (1599)
『ハムレット』 (1600)

『十二夜』(1601)
『オセロ』 (1604)
『リア王』(1605)
『マクベス』(1606)

『冬の夜話』(1610)
『テンペスト』 (1611)

おすすめ参考文献

山田昭廣『シェイクスピアはどのようにしてシェイクスピアとなったか : 版本の扉が語る1700年までのイギリス演劇』名古屋大学出版会, 2023

Jill Kraye(ed.), The Cambridge companion to Renaissance humanism, Cambridge University Press, 1996

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