『ヴェニスの商人』はイギリスの代表的な劇作家シェイクスピアの代表的な喜劇作品。イタリアの物語を題材に、1597年頃に制作された。イギリス演劇の古典的な名作の一つとして知られる。この記事では、あらすじを紹介する(結末までのネタバレあり)。
ヴェニスの商人(The Merchant of Venice)のあらすじ
物語の舞台は16世紀のヴェネチア(ヴェニス)である。当時のヴェネチアは独立国であり、海洋帝国としての繁栄の残影がみられた。多くの商人貴族の海洋貿易によって支えられた国だった。
この物語の主人公のアントニオはヴェネチアの商人である。彼もまた海洋貿易に従事し、裕福であり、名望家でもある。現在も貿易船を外国に派遣しており、その帰りを待っている。
アントニオには、バッサーニオという友人がいる。バッサーニオはアントニオに多額の借金をしている。ベルモントにいる若くて美しい女性ポルシャとの結婚を望んでいる。ポルシャは莫大な資産を相続していたので、裕福である。
バッサーニオはポルシャとの結婚により、アントニオに借金を返そうと考えている。結婚はうまくいくだろうと見込んでいる。
だが、バッサーニオは結婚にはそれなりに金がかかると考える。ポルシャには、様々な裕福な名士が求婚を求めていたからだ。よって、バッサーニオも彼らと比肩できる男だということを示す必要がある。そのためには、それなりの金が必要なのだ。
そこで、バッサーニオはアントニオに、求婚のための借金を申し込む。アントニオはこれに応じる。だが、手元に金がないという。自分の財産は外国への貿易船にすべて投資しているためである。だが、アントニオはバッサーニオにどうにか金を工面したいという。自身の名声をもとに、高利貸しから金を借りようという。
その頃、ベルモントでは、ポルシャが自身の結婚についての悩みを侍女のネリッサと語る。ポルシャの父は彼女に相当な財産を遺した。同時に、結婚相手を選ぶ条件も定めた。金・銀・鉛の3つの箱のうち、鉛の箱を選んだ者でなければ結婚できないのだ。
ポルシャはこれまで数々の男性が求婚してきたが、どれも好みにあわなかったと語る。この求婚者のラッシュにはうんざりだともいう。だが、かつて彼女を訪ねてきたバッサーニオはよかった、とも。
ヴェネチアでは、アントニオがユダヤ人の高利貸しシャイロックに借金を申し込む。この借金がこの物語の中核をなす。本来ならば、アントニオは高い利子を条件に金を借りることになる。
だが、シャイロックは借金が無利子でよいという。そのかわり、もしアントニオが期日までに借金を返済できなければ、アントニオの身体から肉を1ポンド切り取るという条件を提示する。実際にそれだけの肉を切り取れば、アントニオは死んでしまうだろう。だが、アントニオは期日までに自身の商船が帰還するので、その条件を受け入れる。
シャイロックがこのような奇妙な条件を設定したのは、アントニオへの積年の恨みのためだった。そもそも、シャイロックらのユダヤ人の高利貸しはヴェネチアや他のヨーロッパの諸都市で憎まれていた。
アントニオもまたシャイロックらの高利貸しを非難していた。彼らの高利貸しにたいし、アントニオ自身は無利子で友人などに金を貸していた。今回のバッサーニオに金を貸すのも無利子だったように。シャイロックはこのようなアントニオへの復讐を今回企てている。
その頃、シャイロックの娘ジェシカはアントニオの友人ロレンツォと恋をしている。この二人の恋もまたこの物語の一つのサブストーリーをなしている。ある夜、ヴェネチアでは祭りが行われていた。
その喧騒にまぎれて、ジェシカはロレンツォとの駆け落ちに成功する。その際に、父の財産の一部を持ち去る。これを知ったシャイロックは激怒する。
ベルモントでは、ポルシャがモロッコの王子の求婚を受けていた。上述の条件にしたがい、モロッコ王子は三つの箱をみて、一つを選ぶ。金の箱を選んだが、これは失敗であった。次に、アラゴン王国の王子が求婚に来る。銀の箱を選び、これも失敗であった。
そこに、バッサーニオがやってくる。ポーシャは喜んだが、箱をすぐには選ばないよう求める。だが、バッサーニオはすぐに選び始める。金と銀の箱をみたが、鉛の箱を選ぶ。これが正解であり、二人は結婚できることに喜ぶ。結婚式をあげることにする。
ポルシャはバッサーニオに指輪を贈り、どんなことがあっても手放さないと誓わせる。そこに、駆け落ちしてきたロレンツォとジェシカがやってくる。全員が祝福ムードのなかで宴が始まる。
だが、そこに悪いニュースが飛び込んでくる。アントニオからの知らせだ。アントニオの商船が難破してしまった。借金返済の起源までに、商船は帰ってこれないだろう。だから肉1ポンドを切り取られる。もはや生きてはいられないだろう、とのことだった。
バッサーニオはアントニオを救うべく、返済金をポルシャから受け取って、ヴェネチアに向かう。その後、ポルシャと侍女ネリッサは男装して、ヴェネチアに向かう。
ヴェネチアでは、アントニオとシャイロックの裁判が開かれる。ヴェネチアの大統領が裁判長をつとめる。シャイロックはアントニオへの復讐が果たせると意気込む。
バッサーニオはシャイロックに、支払われるべき金銭の2倍の金を受け取るよう懇願する。だが、シャイロックはこの提案を拒否する。
そのとき、弁護士に変装したポルシャが法廷にやってくる。ポルシャはパドヴァからこの裁判でのアントニオの弁護のために派遣されたのだ、と嘘をつく。認められ、アントニオの弁護を開始する。
まず、ポルシャはアントニオへの慈悲を示すようシャイロックに求めるが、これは失敗する。支払われるべき金銭の3倍の金を受け取るよう求めるが、これも拒否される。シャイロックはあくまで、借金の契約が厳格に執行されることを訴える。すなわち、アントニオの肉1ポンドを切り取ることをである。
ポルシャは契約を注意深く読む。そのうえで、シャイロックはアントニオの肉塊を受け取る合法的な権利を有していると宣言する。シャイロックはこの判断を称賛する。だが、ポルシャは契約の文言を厳格に理解するよう注意を促す。シャイロックは復讐を実行すべく、肉塊を切り取るよう求める。
だが、ポーシャはこう反論する。契約には、アントニオの血を流させる権利をシャイロックがもつとは書かれていない。よって、シャイロックはこの権利をもたない。ということは、シャイロックはアントニオに血を流させることなく、1ポンドの肉を身体から切り取ることになる。これが契約の条件だ、と。
シャイロックはが不可能だと認識する。シャイロックは急いで、支払うべき額の3倍の支払いを受け入れると宣言する。だが、ポルシャはこれを拒否する。シャイロックは、もともとの支払うべき額だけを受け取ると申し出る。これも拒否される。ポルシャはシャイロックに契約書通りに受け取るか、何も受け取らないかを迫る。
さらに、ポルシャは追い打ちをかける。シャイロックはヴェネチアの法律に別の点で違反している、と。ヴェネチアの法は自国民を外国人の陰謀から守る。だが、シャイロックは外国人でありながらアントニオというヴェネチア人の命を狙った。
よって、その財産が没収される。半分はヴェネチアの国家に、半分はアントニオに引き渡される、と。シャイロックの命も無事ではすまない、と。
裁判長のヴェネチア大統領はシャイロックの命については容赦した。アントニオは次の条件が同意されるなら、シャイロックの財産を受け取らないという。すなわち、シャイロックがユダヤ教徒からキリスト教徒に改宗することである。
さらに、財産を娘のジェシカと夫に相続させると遺言することである。シャイロックはなすすべなく、これらの条件に同意する。法廷を立ち去る。
アントニオやバッサーニオはこの解決に大いに喜ぶ。ポルシャの正体に気づかないまま、お礼をのべる。報奨金を与えると申し出るが、ポルシャは断る。かわりに、ポルシャがバッサーニオに贈っていた指輪をくれるよう求める。
バッサーニオは困惑し、断っていたが、ついに指輪を与える。手放してはならないといわれていた指輪である。ポルシャはいそいでベルモントに戻る。
翌日、バッサーニオはベルモントに着く。ポルシャは彼が指輪をしていないのは、他の女性に贈ったからだろうという。このようにバッサーニオをさんざんからかった後、実は自身が昨日の弁護士だったと正体をあかす。夫婦は円満となる。
ジェシカらはシャイロックの遺産を相続できると知って、喜ぶ。アントニオの商船が座礁から復帰し、無事にヴェネチアに戻ってくる。かくして、物語は幕を閉じる。
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おすすめ参考文献
シェイクスピア『ヴェニスの商人』 河合祥一郎訳, 角川書店, 2005
※シェイクスピアの生涯と作品については、「シェイクスピア」の記事を参照