「カンタヴィルの幽霊」は、19世紀のアイルランドの作家オスカー・ワイルドの短編小説。1887年に公刊された。幽霊を信じないアメリカ人一家と貴族の幽霊が織りなすユーモラスな物語。この記事では、挿絵付きで、あらすじを紹介する(結末までのネタバレあり)。
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『カンタヴィルの幽霊』(The Canterville Ghost)のあらすじ
舞台は現代のイギリスである。裕福なアメリカ人のオーティス一家がイギリスのカンタヴィル・チェイの古めかしい邸宅を購入するか検討する。
この邸宅は幽霊が出ることで有名であり、いわくつきの物件だった。所有者のカンタヴィル卿はオーティスに幽霊の問題があることを説明する。
だが、オーティスは自分がアメリカという現代的な国からやってきたので、幽霊という古臭い話を信じるつもりがないと考えている。オーティスは幽霊ごとこの物件を購入すると言い、購入を決める。
その後、オーティスは妻と、長男ワシントン、娘のヴァージニア、双子の男の子を連れて、そこに引っ越してくる。家政婦のアムニー夫人が出迎える。
一家は邸宅の中を見て回る。今の床に、血痕があるのに気づき、驚く。アムニー夫人はその由来をこう説明する。
16世紀後半、この邸宅にはサイモン・ド・カンタヴィル卿と妻が住んでいた。サイモンはこの居間で妻を殺し、そのときに血痕が床にしみついた。
その後、サイモンは姿を消し、消息不明となった。だが、その幽霊がこの邸宅に出没するようになった。血痕はもはや床にしみついて消すことができない、ともアムニー夫人はいう。
オーティス一家はこの血痕の逸話を聞いて、恐怖を感じることはなかった。むしろ、また幽霊の話かと思った。ワシントンは淡々と、血痕を現代の洗剤で落とし始める。
その結果、きれいに消し去ることができた。
ところが、翌日、血痕が同じところに現れた。ワシントンはそれをみて、恐怖・・・・・することはなかった。再び、彼は淡々と、洗剤でこれを落とす。
だが、また翌日、血痕が現れる。ワシントンが消す。これが繰り返される。ただし、血痕の色は緑だったり紫だったりする。
オーティス一家は血痕の現象に恐怖ではなく興味を抱く。幽霊の仕業かもしれないと思い始める。
ある早朝、ついにサイモンの幽霊が彼らの前に現れる。サイモンは眠っている一家を怖がらせようとしている。おどろおどろしい服装で、長い鎖をガチャガチャ鳴らせながら、邸宅の中を歩き回り始めた。
鎖の音で、ついにオーティスが目を覚ます。オーティスはサイモンと対面する。だが、驚かない。それどころか、サイモンに潤滑油を渡す。鎖の音がうるさいので、それを鎖に塗るよう促す。そうすれば、家族が静かに寝ていられる、と。
サイモンはバカにされていると思って激怒し、潤滑油の瓶を地面に叩きつけて、割った。そのまま立ち去ろうとする。だが、起きてきた双子に枕を投げつけられる。サイモンは邸宅の隠し部屋へと逃げ込む。
サイモンは自分が幽霊になってから今日まで、この邸宅で多くの人達を怖がらせてきた。何人もの人たちを、誰であろうと、怖がらせてきた。いまやそれが自分の生業のように感じている。
だが、オーティス一家というアメリカ人たちを怖がらせるのに失敗した。それに当惑と憤りを感じ、どうにかして彼らを怖がらせてやろうと心に決める。
サイモンは古い甲冑を着て彼らの前に現れることで、怖がらせてやろうと思い立つ。一家が寝静まった後、それを実行しようとする。だが、甲冑はまともに持ち上げられないほど重かった。サイモンはこれを持ち上げようとして落としてしまい、大きな音が鳴り響く。
一家はこれに驚いたが、それ以上ではなかった。彼らはすぐさま、大きな音を出したサイモンを取り囲む。双子はおもちゃの銃でサイモンを撃ち始める。
サイモンは去り際に、いつものように悪魔のような笑い声をあげることにした。この笑い声はこれまで何度もこの邸宅のかつての住人たちを震え上がらせてきたものだ。
サイモンは最も恐ろしい笑い声をあげた。すると、ドアが開き、オーティス夫人が出てきた。あなたは具合が悪いようなので、この治療薬をあげます、これでよくなりますよ、と言った。サイモンはすごすごと退散した。この失敗で意気消沈する。
数日後、サイモンは気力を回復して、再び一家を怖がらせようとたくらむ。おどろおどろしい服装で、家の中を移動し始める。
サイモンはワシントンの部屋に向かう。というのも、ワシントンが何度も居間の血痕を消していたからだ。サイモンはその復讐をワシントンに果たそうとして、意気揚々に歩き出す。
だが、サイモンは角を曲がったところで、突然、あわれな叫び声をあげて、後ろ向きに倒れ、両手で自分の顔を覆った。見たことのない新手の幽霊に遭遇したのだ。
サイモンはこの邸宅に他の幽霊がいるとは思っていなかった。そのため、びっくりして、隠し部屋に逃げ込む。ベッドにもぐりこんだ。
サイモンは気を落ち着かせる。新たな幽霊と話し合ってみよう思った。幽霊がもう一人いれば、それは心強いことだ。あの双子とも対等に戦える。そう思い、決心して、次の夜に、遭遇した場所まで思い切って行く。勇気を出して、その幽霊に話しかける。
だが、この幽霊はなんだか変である。サイモンはこの幽霊の首から吊り下がっているプレートに気づき、それをひっつかむ。そこには、「あなた方だけが真実かつオリジナルの幽霊です。偽物にはご注意ください」と書かれてあった。
サイモンはこれがオーティス家による作り物だと気づく。そう、一家にまんまと騙されたのだ。サイモンは激怒する。やり返してやろうと、復讐を誓う。だが同時に、自分の情けなさを感じ、意気消沈する。隠し部屋に戻っていく。
これほどの失敗を重ねて、サイモンは一家を怖がらせることにたいして、臆病になってきた。居間の血痕をつくるのをやめ、鎖に潤滑油を塗り始めたほどである。古い床板を歩くときは、音を立てないよう静かに歩くようになった。
だが、一家は追撃の手を緩めない。双子は家の中に様々な仕掛けをして、サイモンへの追撃を加える。サイモンはこれにやり返そうとする。だが、彼は双子の仕掛けにひっかかり、返り討ちにあう。
彼は隠し部屋に逃げ帰る。
サイモンは一家を怖がらせることがますます怖くなってきた。それでも、双子を懲らしめようと決心し、首のない貴族の姿で双子の部屋を襲うことにした。
この仮装の準備には3時間以上かかった。この恐ろしい姿はかつて、この邸宅の住人の婚約を台無しにさせるほど、人々を怖がらせた。婚約した女性がこの姿を見て、恐怖に震えあがり、この家に同居するのを拒否したのだ。そういう「実績」のある姿だった。
ある夜、サイモンはその姿をして、双子の部屋に近づいた。ドアが少し開いていた。サイモンはドアを大きく開けて、中に入ろうとした。
すると、ドアの上に仕掛けてあった重い水差しが落ちてきた。サイモンはびしょ濡れになった。双子は笑い声を噛み殺していた。サイモンは逃げ帰った。
その後、サイモンはオーティス家を怖がらせようという望みをなくした。反対に、オーティス家の子どもたちにいつ襲われても大丈夫ように、用心するようになった。いわば、完全に攻守が入れ替わったかたちだ。
ある夜、サイモンは一家が全員寝静まったと思われる深夜を選んで、家の中を歩いていた。「墓なしジョナス」の格好をして、居間に向かっていく。血痕が消されてしまっているかを確認しようとしたのだ。
そろそろ着くというところで、突然、暗い隅から2つの影が躍り出る。サイモンの耳元で大声を出し、威嚇しながら駆け寄ってくる。
双子に急襲されて、サイモンはパニックになって階段を駆け上がる。だが、そこには、ワシントンが水鉄砲をもって待ち構えていた。サイモンは逃げ道を探し、どうにか暖炉から煙突を通って隠し部屋に戻った。だが、ひどい汚れまみれで、もうくたくただった。
この頃、チェシャー公爵が一家の娘ヴァージニアを訪れるようになっていた。長年、この邸宅でサイモンはチェシャー公爵を怖がらせてきた。その絶好の機会が訪れる。だが、サイモンは一家を恐れて、それすらできなくなっていた。
ある日、ヴァージニアは憔悴しきったサイモンを見かける。ヴァージニアは温厚な娘であり、これまでサイモンに危害を加えてこなかった。ヴァージニアはユーモアと皮肉の混じった会話をサイモンとする。
その後、ヴァージニアはサイモンが永遠の眠りを望んでいることを知る。ヴァージニアはサイモンの望みを誠実に聞く。サイモンを安心させようとする。
サイモンはヴァージニアに気を許す。これまで幽霊として人々を怖がらせてきたが、永遠の眠りにつけるかもしれないと思う。その方法をヴァージニアに告げる。
若くて無垢な少女がサイモンのために祈りを捧げれば、サイモンは天に召されるだろう。敷地内の長い間咲いてこなかったアーモンドの木が再び花を咲かせたなら、それが昇天の証である、と。
ヴァージニアはその手助けをすると彼に告げる。サイモンは感謝し、ヴァージニアを隠し部屋につれていく。
一家はヴァージニアが行方不明なことに気づき、探し始める。見つからない。しばらくして、ヴァージニアが宝石をもって現れる。彼女はこれをサイモンから受け取ったという。彼女は彼らを隠し部屋へと連れて行く。
隠し部屋には、鎖で繋がれたサイモンの遺骨があった。
サイモンは妻を殺害した後、妻の両親によって、この部屋に閉じ込められ、餓死していたのだ。ヴァージニアの手助けにより、ようやく昇天できた。アーモンドの花が咲いた。
サイモンの葬儀が行われる。
ヴァージニアは宝石を彼に返そうとする。だが、オーティスは幽霊も含めて邸宅を購入したので、その財産は自分のものだという。
ヴァージニアはチェシャー公爵と結婚する。
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