『ニーベルンゲンの歌』

 『ニーベルンゲンの歌』は中世ドイツの叙事詩。1200年ころに制作された。二部で構成される。アイスランドなどの伝承を題材としている。この作品は後代に広く愛され、ワーグナーなどの楽曲にも反映されている。この記事では、あらすじを紹介する(結末までのネタバレあり)。

『ニーベルンゲンの歌』(Nibelungenlied)のあらすじ

第一部

 この物語はネーデルラントの王子ジークフリートとブルゴーニュの王女クリームヒルトを中心に展開する。なお、ニーベルング人はブルゴーニュ人を指す。
 クリームヒルトはその美貌で有名である。父のブルゴーニュ王ダンクラートはドイツのヴォルムスで宮廷をもつ。

 ジークフリートはかつて竜を退治したことのある英雄である。竜の血を浴びたことにより、人間からの攻撃に対してほぼ無敵となった。
 ジークフリートは騎士の称号を得た。その祝典として、当時の慣習の通りに、豪華なミサや馬上槍試合が開催された。祝宴が続き、豪華な贈り物が与えられた。

 ジークフリートは結婚を考えていた。クリームヒルトの美しさの噂を聞き、彼女を選ぶことにする。そこで、壮麗な武具で身を整え、ブルゴーニュへ向かう。

 ブルゴーニュの騎士ハーゲンがジークフリートを見て、面識はなかったが、彼が誰だか認識する。ジークフリートはかつてニーベルング人を倒し、その財宝を奪った。そのため、ハーゲンは彼を丁重に扱おうとする。

 だが、 ニーベルングの財宝の番人であったアルベリヒは、ジークフリートに復讐を果たそうとする。だが、ジークフリートはアルベリヒを倒す。彼から透明なマントという宝を奪い取る。このマントは着る者を見えなくする。
 アルベリヒは、ジークフリートをニーベルングの財宝の新しい主人と認めて、服従することになる。

 ジークフリートはブルゴーニュ人の宮廷で手厚いもてなしを受けた。馬上槍試合が開催された。ジークフリートは自身の勇壮さを発揮した。
 この頃、サクソン人がブルゴーニュ人に戦争を仕掛ける。ジークフリートはそこでブルゴーニュ人に加勢し、サクソン人を打ち負かす。かくして、ブルゴーニュ人にも英雄視される。

 ブルゴーニュの老王は勝利の祝宴を開催する。ジークフリートはこの機会に、はじめてクリームヒルトを見て、恋をする。その日から、毎日彼女を訪れるようになる。

 他方で、ブルゴーニュ老王の後継者の一人グンターは結婚相手を探している。アイスランドのブリュンヒルドもまた美しさで有名である。グンターは彼女との結婚を望む。
 だが、ブリュンヒルドとの結婚には大きな壁がある。彼女は怪力でも有名だった。槍投げなどの3つの競技で彼女に勝利することが結婚の条件とされた。敗北すれば処刑される。これまで数々の求婚者がこれに挑戦し、命を落としてきた。
 それでも、グンターはブリュンヒルトに求婚すると宣言する。ジークフリートはこれを思いとどまるよう忠告した。 だが、グンターは意思を曲げない。グンターはクリームヒルトの兄であるため、ジークフリートはこの危険な賭けを手助けすることにする。
 そのために、ジークフリートは上述の透明マントを用いることにする。これを着ると周りから見えなくなると同時に、怪力を身につけることができる。

 ジークフリートはグンターに同行してブリュンヒルトのもとにやってくる。ジークフリートは自分の身分を明かさず、彼女にはグンターの家臣であると名乗る。
 ブリュンヒルドとグンターの対決が始まる。
ブリュンヒルトは重い槍を軽々と持ち上げ、グンターに投げつける。 槍はグンターの盾を貫くが、どうにか持ちこたえる。
 ジークフリートは透明マントを着て、重い槍をブリュンヒルドに投げつける。もちろん、グンターがそうしているようにみせかける。ブリュンヒルトは盾でどうにかこれを防ぐ。
 だが、この強烈な一撃に驚く。ブリュンヒルドはグンターが投げたと思い込み、彼を称賛する。
 次に、ブリュンヒルドは巨大な岩を遠くまで投げ飛ばす。そして、高く跳躍する。 透明マントのジークフリートがその巨大な岩を彼女よりも遠くに投げる。もちろん、グンターが投げたふりをする。
 さらに、ジークフリートはグンターとともに、彼女より高く跳躍する。
 かくして、グンターが競技で勝利した、とブリュンヒルトは認める。結婚に同意し、ともにヴォルムスの宮廷に向かう。彼女はヴォルムスで、美しさや高貴な身分などにより歓待される。馬上槍試合などが盛大に行われる。
 かくして、二組が同時に結婚式を行う。一つは、ブルゴーニュのクリームヒルト王女とジークフリート王子である。もう一つは、アイスランドのブリュンヒルト王女とブルゴーニュのグンター王である。

 このとき、ブリュンヒルトがジークフリートに懸念をもつ。グンター王の家臣だと思っていたからだ。義理の妹のクリームヒルトは、夫のグンター王の家臣と結婚するのだろうか。身分違いではないか。クリームヒルトは王家の人間なのに、不幸ではないか、と思った。

 その日、二組は初夜を迎える。ブリュンヒルドはグンターにたいし、ジークフリートについて知っていることを話すよう求める。そうしない限り、一緒に初夜を迎えるつもりはないと言う。
 グンターは怒り、彼女を力づくで言いなりにしようとする。だが、力では勝てるわけがない。あっさり負かされる。

 翌日、グンターはジークフリートにこの失敗を話す。ジークフリートはグンターを可哀想に思う。そこで、ジークフリートはグンターの初夜を手伝うことにする。その夜、透明マントを着て、グンターとブリュンヒルトの寝室に入る。
 見えないジークフリートはグンターのかわりに、ブリュンヒルドをベッドでねじ伏せる。グンターがそうやっているようにみせかける。ブリュンヒルドはついにグンターに従う。
 その際に、ジークフリートはブリュンヒルドから金の指輪とガードルを奪い取り、去る。それらをクリームヒルトに与える。

 その後、ジークフリートはクリームヒルトとともに、自分の国に戻って来る。年老いた父は王権をジークフリートに譲る。彼の母は没する。かくして、ジークフリートらが王と王妃とになる。

 それから、10年間がたつ。
 ブリュンヒルドは相変わらず、クリームヒルトが身分違いの不幸な結婚をしているのではないかと考えていた。そこで、彼ら二人をヴォルムスでの祝宴に招く。
 ジークフリート夫妻はヴォルムスに到着し、歓待される。だが、ブリュンヒルトとクリームヒルトはそれぞれの夫の地位などをめぐって、口論を始める。
 その中で、クリームヒルトがついにジークフリートの秘密の一部を教える。グンターが彼女と初夜を迎えられたのは、ジークフリートのおかげだと。
 その証拠として、上述の指輪とガードルをブリュンヒルドに見せつける。ブリュンヒルトは愕然として、泣き崩れる。
 事態はここから大きく動いていく。上述の王の家臣ハーゲンはブリュンヒルトの悲しみをみて、ジークフリートへの復讐を誓う。
 だが、ジークフリートは竜の血を浴びたので、通常の仕方では倒せそうにない。しかし、弱点があるという噂もある。ハーゲンはこの弱点をクリームヒルトが知っているはずだと考える。
 ある日、ハーゲンはクリームヒルトを尋ねる。家臣として、ジークフリートの戦場での安全について懸念をもつふりをする。万一のことを考えて、ジークフリートの弱点を知っておきたい。そうすれば、より上手に彼を守ることができる、と。
 クリームヒルトはこれに納得する。背中の肩甲骨の間に木の葉が落ちて、ジークフリートはそこだけ竜の血を浴びなかったと教える。ハーゲンの依頼で、その場所に印がつけられる。
 ハーゲンは復讐の計画を立てる。グンター王にはこれを教える。彼らはジークフリートを狩りに誘う。
 小川で休憩をとる。ハーゲンはジークフリートの弱点に向かって槍を刺す。ジークフリートは瀕死になりながらハーゲンに抵抗したが、ついに死んだ。ハーゲンらはこの暗殺を秘密にし、ジークフリートが強盗に殺されたということにする。
 彼らは遺体をヴォルムスに持ち帰る。クリームヒルトが発見するようそれを配置する。クリームヒルトは遺体を見て、復讐を誓う。ハーゲンらに疑いをかけるが、強盗が殺したと反論される。
 遺体が大聖堂に安置される。ハーゲンがそれに近づいた時、遺体の傷口から血が流れる。クリームヒルトはこれをみて、ハーゲンが殺害したのだと確信する。
 クリームヒルトはヴォルムスでハーゲンへの復讐を開始する。そのために、ニーベルングの財宝を番人のアルベリヒに運んでくるよう手配する。この莫大な財宝をブルゴーニュの騎士などに与え、忠誠を勝ち取ろうとする。
 ハーゲンはこれに危機を感じ、財宝を彼女から奪い取るよう、王たちに進言する。王たちはこれを実行する。
 王たちは旅に出る。ハーゲンはその機会に、莫大な財宝を奪い、ライン川に沈めて隠す。

第二部

 フン族の王アッティラがハンガリーに移ってくる。アッティラは結婚相手を探す。クリムヒルドの美しさの噂を聞いて、彼女を妻にしようと決める。
 その使者たちがヴォルムスに到来し、歓待される。王たちはアッティラの求婚を好意的に受け止める。ハーゲンは新たな同盟関係の成立に警戒感を示す。だが、王たちはクリムヒルトに結婚を勧める。
 クリムヒルドはアッティラが異教徒なので、当初は難色を示す。だが、復讐のチャンスだと考え、結婚を受け入れる。ハンガリーに向かう。
 二人は結婚し、時が流れる。二人には息子もできた。
 クリームヒルトはグンター王らをハンガリーに招待する。ハーゲンも同伴させるように、と。使者がヴォルムスで歓待される。
 グンター王らはこの招待に応じる。だが、ハーゲンは自身がジークフリートを殺したと明らかにしたうえで、招待に反対する。
 だが、グンターはきっと安全だという。もしクリームヒルトが怖いなら、居残ってもよい、とも。ハーゲンは怖くはないといい、同行するのに同意する。

 王たちはハンガリーに向かう。ハーゲンはこの旅で滅ぼされるという不吉な予言を聞く。それが間違っているかを確かめようとした。どうやら、予言は間違っていないようだ。そう思いながらも、ハンガリーに向かう。
 一行はハンガリーにつく。クリームヒルトはハーゲンに、ニーベルングの財宝を自分に返すよう求める。ハーゲンはそれがライン川に沈んでいると答える。
 ハーゲンは財宝の一つで、ジークフリートが身につけていた名剣バルムングを身に着けていた。クリームヒルトはハーゲンに、なぜジークフリートを殺したのかと詰め寄る。
 ハーゲンは彼を殺したと認める。その理由は彼が愛するブリュンヒルトを苦しめたからだと答える。
 アッティラ王はブルゴーニュ人を歓待しようとする。ミサや馬上槍試合を行う。だが、ブルゴーニュ人とフン族の間で対立と緊張感が高まっていく。
 クリームヒルトは両軍の戦闘開始を望む。その引き金を引こうとする。息子をハーゲンに引き合わせる。ハーゲンはこの息子がいつか自分の命にとって危険になると考え、殺す。
 これがきっかけになり、両軍が戦闘を始める。

激しい戦いの末、ブルゴーニュ軍はグンターとハーゲンが残される。グンターの首が切り落とされ、ハーゲンに引き渡される。
 クリムヒルドはハーゲンに、ニーベルングの財宝の在処を尋ねる。ハーゲンは答えない。クリムヒルドはバルムングで彼の首をはねる。ついに復讐を遂げたのだ。
 アッティラの騎士ヒルデブランドは、ハーゲンのような騎士が女に殺されることに反感を抱く。 彼は自ら剣を抜き、クリームヒルトを殺す.アッティラ王は悲しみに暮れる。

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『ニーベルンゲンの歌』石川 栄作訳, 筑摩書房, 2014

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