カンポマネス:スペインの啓蒙専制主義官僚

 ペドロ・ロドリゲス・カンポマネスは18世紀スペインの政治家で経済学者(1723ー1803)。政治家としては、スペインで啓蒙専制主義を実践し、農工業の発展によるスペイン経済の立て直しを図ったことで知られる。学者としては、それらの施策の裏付けとなるような著作を生み出していった。その生涯と功績を詳しく見ていく。

カンポマネス(Pedro Campomanes)の生涯

 カンポマネスはスペインのアストゥリアで下級貴族の家庭に生まれた。父は早くに亡くなった。幼い頃は教会で学んだ。その後、ローマ法と教会法を学んだ。

 18歳の頃、カンポマネスはマドリードに移り、弁護士としてのキャリアを始めた。次第に名声を高めた。22歳の頃には、弁護士として独立した。まもなく、アルバ公爵、アルブルケルケ公爵など主要貴族のの顧問弁護士となり、成功していった。

 学者としての成功

 カンポマネスは弁護士として働くかたわら、歴史研究にも勤しんだ。1747 年には、テンプル騎士団にかんする著作を公刊した。これが最初の歴史学的な著作だった。この業績が認められ、翌年には王立歴史アカデミーに入ることができた。そこでは、スペインの法律に関する研究に従事した。

 カンポマネスは学者としての名声を高めていった。その結果、1754年には、ローマ教皇庁から禁書の大半を読む権限を与えられた。そこでは、マキャヴェリなどの著作は除外された。さらに、1756年には、スペインでの宮廷図書館で、書籍検閲官に任命された。かくして、より広範な史料にアクセスできるようになった。彼の学者としての名声はフランスやイギリスにも広まっていった。フランスのアカデミーにも加入した。同時に、王立歴史アカデミーの院長を30年以上もつとめることになった。1763年には、スペイン王立アカデミーの正会員となった。

 同時に、カンポマネスは政治的・経済的な改革のためにも研究を進めていた。そこでは、啓蒙主義と絶対王権の理論が展開された。啓蒙専制主義の理論が構築されていった。

 政治的キャリアでの成功:啓蒙主義的な諸改革

 1755年から、カンポマネスは王室にも仕えるようになった。まずはスペインの郵便制度の整備に尽力した。1762年から王室の法律顧問として、検事として活躍した。教会や貴族、軍隊や大学などへの王権の伸長と擁護のために活動した。これを1783年まで続けた。
 カンポマネスにとって、王権の目的は王国の富と人民の福利の増大だった。この目的を王国の法の制定によって実現しようとした。そのために、貴族や教会などの特権をできるだけなくし、王の法に一律に従わせようとした。
 カンポマネスは経済的方策なども考えた。カンポマネスは臣民が豊かになることで国の富も増大すると考えた。そのために、たとえば、ギルドや貿易統制の撤廃による自由主義的な経済活動を提唱した。それらを『人民産業の促進論』などで論じた。
 また、教育の改革も強く訴えた。そのためにも、1767年、当時のスペインの教育界に強い影響力を維持していたイエズス会の追放を行った。大学の改革を行い、労働者の技術教育を試みた。また、女性の教育を推奨し、女性も教育すればどのような職業にもつけると訴えた。
 さらに、カンポマネスは諸改革を推進すべく、農業協会や工業協会を設立した。とくに1783−91年まで、カンポマネスはカスティーリャ顧問会議議長として実権を握った。実質的に王の代理人としてふるまった。賭博や治安の対策など、諸改革を広範に推進していった。1789年からのフランス革命については、スペインの中立を提案した。

 権力の絶頂から引退へ

 1792年、カンポマネスは顧問会議議長から離れ、国務評議会のメンバーになった。これは事実上の引退に近かった。そのため、徐々に政界や学問の世界で影響力を失っていった。1803年に没した。

 イベリア半島で実権を握った専制啓蒙主義の政治家として、カンポマネスはポルトガルのポンバル侯爵とともに知られることになる。この時期はプロイセンのフリードリヒ2世やロシアのエカチェリーナ2世のような啓蒙専制君主が活躍していた時代だった。

カンポマネスの肖像画

カンポマネス 利用条件はウェブサイトで確認

カンポマネスの主な著作・作品

『人民産業の促進論』 (1774)
『手工業者の人民教育と促進論』(1775ー77) 。

おすすめ参考文献

立石博高編『概説近代スペイン文化史 : 18世紀から現代まで』ミネルヴァ書房, 2015

Mónica Ricketts, Who Should Rule? Men of Arms, the Republic of Letters, and the Fall of the Spanish Empire , Oxford University Press, 2017

Allan J. Kuethe, The Spanish Atlantic world in the eighteenth century, Cambridge University Press, 2014

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