シェイクスピアの『ハムレット』:巨匠ドラクロワの挿絵とともに

 ハムレットはイギリスの代表的な劇作家シェイクスピアの作品で、四大悲劇の一つとして知られる。そのあらすじを、19世紀フランスのロマン主義の巨匠ドラクロワの挿絵とともに紹介する(結末までのネタバレあり)。

 ハムレットは1601年頃に制作され、1602年頃に初演された。世界的な名作として知られるようにあり、各国語に翻訳され、上演されてきた。日本では19世紀後半に初めて和訳が試みられた。全訳と上演は20世紀初頭になされた。

ハムレット(Hamlet)のあらすじ

 舞台はデンマークのエルノシア城である。最近、デンマーク王が死んだ。彼は主人公ハムレットの父である。この父王の死後、その弟のクローディアスがデンマーク王となった。さらに、クローディアスは父王の妻だったガートルードと結婚した。

 よって、クローディアスは父王の王位と王妃を得たことになる。ハムレットはデンマークの王子であり、父王の葬儀のために故郷に帰ってきた。母が父の死後まもなく再婚したことについて、ハムレットは納得がいかなかった。

母の再婚に納得のいかないハムレット

 ある冬の晩、父王に似た亡霊がエルシノア城の城壁に現れた。ハムレットの友人ホレイショがこの亡霊を見たと、城の衛兵に伝えた。ハムレットはホレイショに会い、亡霊について知った。そこで自分の目で確かめたいと考える。

 その頃、別の場所では、クローディアス王の側近ポローニアスのもとから、息子のレアティーズが旅立った。ポローニアスはハムレットの恋人のオフィーリアの父である。ポローニアスはオフィーリアとハムレットの恋仲をよく思っていなかった。そのため、オフィーリアにハムレットと接近しすぎないようにと、レアティーズで伝言した。

 再び、エルシノア城。上述の亡霊をハムレットが見かけた。そのため、ハムレットは亡霊を追った。

亡霊を追いかけようとするハムレット

ハムレットはその亡霊に追いついた。亡霊はハムレットに、自らが父王だと名乗った。

ハムレットに正体を明かす父王の亡霊

亡霊はハムレットに、弟のクローディアスがどのように自身を殺したかを語った。その上で、ハムレットに復讐するよう求めた。ハムレットはその言葉が事実かどうかを確かめようと思った。その方法を考え出そうとした。夜明けとともに、亡霊は消えた。

 ハムレットは上述の方法を考えている間、身の安全を考えて、狂気を装うことにした。あるいは、本当に狂気を帯びた。ハムレットは奇妙な行動を取り始める。そのため、クローディアスはハムレットの行動の原因を探ろうとする。

 なかなかうまくいかない。そこで、黒ーティアスはハムレットの旧友ギルデンスターンとローゼンクランツを利用して、その原因を探らせようとした。

ハムレットの様子をうかがうギルデンスターンたち

 クローディアスと側近ポローニアスはこの態度の変化の理由を、オフィーリアへの恋の悩みにあるのではないかと考えた。そこで、ハムレットとオフィーリアを監視した。だが、ハムレットはオフィーリアにたいしても冷たい態度をとり、距離を取った。結婚はしたくないし、オフィーリアは修道院に入れ、とまで言った。

オフィーリアを冷たくあしらうハムレット

 この頃、旅役者の一座がエルシノア城にやってきた。ハムレットは名案を思いついた。彼らの劇の中に、クローディアスが父王を殺害したのと同じような場面を入れてもらうことにしたのだ。クローディアスによる殺害が事実ならば、クローディアスはそれらしい行動を取るだろう、とハムレットは考えた。

 いざ、劇が始まった。父王の殺害を連想させるシーンになった。

王を殺害させようとするシーンを演じる劇団とハムレット

クローディアスは明らかに動揺し、部屋を飛び出した。ハムレットは父王殺害の罪を確信した。ハムレットはクローディアスへの復讐を遂げるべく、クローディアスを探した。見つけた。だが、クローディアスは神に祈りを捧げているところだった。

神に祈りを捧げるクローディアスとそれを発見したハムレット

祈りの最中に殺されたなら、クローディアスの魂は地獄ではなく天国にいってしまう。ハムレットはそう考え、この場での復讐を諦めた。その場を去った。

 ハムレットは怒りを抱えたまま、母ガートルードの部屋にやってきた。母はクローディアスへのハムレットの態度を注意したため、ハムレットと口論になった。その時、部屋のタペストリーの背後で物音がした。

 ハムレットはそれに気づいた。きっと、ここにクローディアスが隠れているにちがいない。そう思い、ハムレットは剣を抜いて、タペストリーに近づいた。

物音のしたタペストリーに近づくハムレット

今こそ父の復讐を果たすべきときが来た。ハムレットはそう思い、決心して、一気にタペストリーごと背後にいる人物を剣で突き刺した。背後の人物は崩れるように、床に倒れた。だが、そこに倒れていたのはクローディアスではなく、側近のポローニアスだった。

倒れたポローニアスを見出すハムレット

ハムレットがガートルードの部屋に到着する前に、ポローニアスはガートルードをハムレットから守ろうと考え、ガートルードの部屋に移動していたのだった。かくして、ハムレットは誤ってポローニアスを殺害してしまったのだ。恋人オフィーリアの父親を。動揺するハムレットの前に、父王の亡霊が現れ、ハムレットに復讐を達成せよと求めた。

 ポローニアスの死により、オフィーリアは悲しみにくれた。日に日に衰弱していった。

衰弱していくオフィーリア

オフィーリアはついに発狂して、川で溺死する。ポローニアスの息子のレアティーズは、ハムレットに父を殺されたのを知り、激昂し、デンマークに戻ってきた。クローディアスはポローニアスとオフィーリアの死がハムレットのせいだとレアティーズに説得する。クローディアスとレアティーズはハムレット殺害を計画する。

 その頃、ハムレットはイギリスに派遣された。ポローニアスを殺害した罪で追放刑に処すというのが表向きの理由だった。だが、実際には、イングランド王には、ハムレットをイングランドで死刑に処すよう依頼していた。クローディアスがハムレットから自身の身を守ろうとしたためだ。

 イングランドへの道中、ハムレットはそのようにしてクローディアスが自分を殺害するつもりだと知る。そこで、デンマークに帰国することにした。クローディアスはこのことを知り、レアティーズを用いてハムレットを殺害しようと計画する。

 ハムレットは城に戻る道中、墓地で友人ホレイショと出会った。クローディアスの計画について話し合った。まさにその時、オフィーリアの葬列がその墓場に入ってくる。ハムレットはオフィーリアの死を知り、悲嘆に暮れる。

 ハムレットは城に戻った。ハムレットはレアティーズと剣で戦うことになった。クローディアスはこの機会を利用して、ハムレットを殺そうと企んだ。レアティーズの剣に毒を塗ったのだ。レアティーズがハムレットに剣撃で傷つけられなかった場合のことを考えて、ハムレット用の飲み物に毒を仕込んだ。

 二人の戦いが始まった。ガートルードが知らずにハムレット用の毒入りドリンクを飲んでしまい、死んだ。レアティーズも戦いで死んだ。ハムレットも毒の刃で傷つけられた。

ガートルード、レアティーズ、ハムレットが倒れる悲劇的なシーン

ハムレットは死にひんしながら、クローディアスを殺害する。そのまま自らも没した。

 かくして、デンマークの王族たちが死んでいった。そのタイミングで、交戦中だったノルウェーの軍隊がエルシノア城に入ってくる。かくして、物語は幕を閉じる。

ハムレットの歴史

 ハムレットは上演されてからすぐに人気の舞台作品となった。劇場だけでなく、大学や宮廷でも上演された。1619年にはイギリス王ジェームズ1世の前で、1637年にはイギリス王チャールズ1世の前で上演された。もちろん、本拠地となったのはグローブ座の劇場である。当時は女性の役を男の子が演じていた。

 その後、ハムレットは原題に至るまで、イギリスではほとんど途絶えることなく人気の作品であり続けた。シェイクスピアの多くの戯曲は17世紀後半からしばしば改作されてきた。だが、ハムレットは多少の短縮を施されるだけにとどまった。具体的には、この劇の政治的な含意のあるシーンや下品とみなされたシーンがカットされたり、長いセリフが割愛されたりした。

 ハムレットはロングセラー作品だった分、様々な解釈を加えられて上演されてきた。たとえば、家族愛に焦点を当てた解釈がみられた。反対に、フロイトのエディプス・コンプレックスに基づいて、ハムレットに父殺しの根源的欲求があるという解釈もなされた。

 20世紀には、登場人物の服装や髪型などが当時のものに合わせられた。映画やテレビで上演されるようになり、放送の仕方に合わせた様々な工夫が施された。他にも、父王の亡霊が一切登場しないバージョンが制作されるなど、現在もハムレットは新たな息吹を吹き込まれ続けている。

おすすめ関連作品

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※シェイクスピアの生涯と作品については、「シェイクスピア」の記事を参照。

おすすめ参考文献

シェイクスピア『ハムレット』野島 秀勝訳, 岩波書店, 2003

日本シェイクスピア協会編『シェイクスピアとの往還』研究社, 2021

日本シェイクスピア協会編『シェイクスピアと演劇文化』研究社, 2012

David Wiles, The players’ advice to Hamlet : the rhetorical acting method from the Renaissance to the Enlightenment, Cambridge University Press, 2020

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