ルイス・キャロル:『不思議の国のアリス』の世界とは



 ルイス・キャロルは19世紀後半のイギリスの作家(1832ー1898)。『不思議の国のアリス』や続編の『鏡の国のアリス』の作者として知られる。若い頃からオックスフォード大学で数学などの才能を開花させる。その後も死ぬまで、同大学で職を得る。『不思議の国のアリス』はオックスフォード大学での小さな少女との出逢いで生まれた作品である。この記事では、彼の生涯とこの作品についてみていく。

ルイス・キャロル(Lewis Carroll)の生涯

 ルイス・キャロルはイギリスのデアズベリーで牧師の家庭に生まれた。ルイス・キャロルは本名ではなく、ペンネーム。本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン。ヨークシャーのリッチモンド校や、ラグビー校で学んだ。1850年からは、オックスフォード大のオックスフォードで学んだ。

 ルイス・キャロルの多面的活動

 大学では、数学で受賞するなど、学才を開花させた。学位を取得後、同大学のクライスト・チャーチ学寮で数学と論理学の講師をつとめた。この職を生涯続けることになる。なお、1861年には、英国教会の執事に任じられた。すなわち、父と同様に、キリスト教会の聖職者にもなった。

 彼はほかにも様々な面をもつ。詩人としても活動した。普段の職業は上述のように数学などの講師だった。また、当時普及しつつあった写真にものめり込んだ。有名人などの写真を多く撮影している。

 童話作家としての成功へ

 大学在学中に、キャロルは学部長の娘と知り合うことになった。これをきっかけに、世界的な名作『不思議の国のアリス』(1865 年)とその続編『鏡の国のアリス』(1871 年)を生み出すことになる。

 もともとは、キャロルがつとめていた学寮の学部長の娘アリス・リデルに語った「アリスの地下世界の冒険」というお話が原型だった。この童話集の存在を知った人々が、これを出版するようキャロルに勧めた。

 そこで、キャロルはこれを加筆修正し、1865年にジョン・テニエルの挿絵つきで『アリスの不思議な世界』として出版した。

 『アリスの不思議な世界』の成功

 当時のイギリスでは、児童文学は道徳的教訓を教えるためのものという認識が一般的だった。だが、『アリスの不思議な世界』はこの目的からはかけ離れたものとみなされた。大人の批評家たちには、この物語の奇妙な発想や不条理な展開などがすぐには受け入れられなかった。

 しかし、本作は子どもたちの心を鷲掴みにし、魅了した。というのも、キャロルは子どもたちの心理に精通しており、彼らに合うよう物語を紡いでいたからだった。マッドハッターやハートの女王、チェシャ猫と白ウサギのような特徴的なキャラクターが人気となった、
 物語のナンセンスさとなぞなぞ、豊かで独自の発想力は当時のイギリス人の批評家には理解しがたかったとしても、これらが爆発的な人気の原因となった。 

 本書の性格

 とはいえ、本書の内容はキャロルの時代のイギリス社会の文化や習俗とは無関係な、それらを超越したものではない。たとえば、本書の主要な登場キャラクターたちはイギリスの上流階級に属していると思われる。

 たとえば、アリスは物語の中でお茶会を開く。当時の労働者階級はお茶よりもコーヒーを飲んだ。お茶会を開くというのは貧困層の習慣ではなかった。
 そもそも、キャロル自身がオックスフォード大学に属し、大学の人々と日常的に交流をもっていた。そのメンバーの娘のために紡いだのがこの作品だった。そのため、この作品のあらすじは支離滅裂にみえたとしても、当時のイギリス文化の影響が体系的に反映されているといえる。

 本書の位置づけ

 かつて、『アリスの不思議な世界』はそれまでの児童文学を一変させた画期的な作品だと評された。この作品まで、児童文学は道徳的教訓を教えた。だが、本書以降、児童文学は娯楽と楽しみのジャンルに変わった、と。この関連で、本書はナンセンス文学のはしりとも考えられてきた。
 だが、この伝統的な理解には批判もでてきた。たとえば、本書以前から、ナンセンス志向の児童文学が存在していたことが指摘された。また、この作品にも、道徳的教訓を読み込もうとするケースもでてきた。
 よって、本書の位置づけはかつてよりも複雑になっている。本書にどれだけ道徳的教訓を読み込めるのかは、実際に読んでみて判断したいところだ。

 その後の世界的人気

 『アリスの不思議な世界』はすぐに様々な言語に翻訳されるようになり、世界的に有名な童話の一つになった。さらに、無数の映画や演劇、アニメや漫画などの題材にもなってきた。この止むことのない世界的な人気は本書の重要な特徴の一つであり続けている

 21世紀に入ってもなお、新たな翻案作品が登場するなど、その影響は全世界的に拡大し続けている。たとえば、著名なティム・バートン監督が制作した『アリスの不思議な世界』は19歳になったアリスが不思議な世界に戻ってくるという映画作品である。

 本書の挿絵つきのあらすじは、次の記事を参照

ルイス・キャロルの肖像写真

ルイス・キャロル 利用条件はウェブサイトで確認

 ルイス・キャロルの主な著作・作品

『不思議の国のアリス』 (1865)
『鏡の国のアリス』 (1872)
『スナーク狩り』 (1876)
『シルビーとブルーノ』 (1889,1893)

おすすめ参考文献

安井泉編『ルイス・キャロルハンドブック : アリスの不思議な世界』七つ森書館, 2013
エドワード・ウェイクリング『ルイス・キャロルの実像』小鳥遊書房, 2020

Jan Susina, The place of Lewis Carroll in children’s literature, Routledge, 2011

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