『源氏物語』は紫式部の代表作であり、日本文学の代表作として世界的にも広く知られている。この記事では、あらすじを、400年前の美麗な画像とともに、紹介する。
なお、この記事は21帖からである。1−20帖はこちらの記事を参照。
21帖 少女(おとめ)
源氏の息子の夕霧が元服した。頭中将の娘の雲居雁(くもいのかり)と恋仲になっていく。
その頃、冷泉帝が梅坪の女御を第一の后にすると決めた。上述の「絵合」において、源氏と頭の中将がそれぞれの娘を冷泉帝の第一の后に推薦する様子が描かれていた。その結果として、冷泉帝は源氏の推薦を選んだことになる。
頭中将は、敗北し、悔しがる。せめて娘の雲居雁を東宮の后にしようと考えた。雲居雁が夕霧と恋仲だと知り、二人の仲を引き裂く。
22帖 玉鬘(たまかずら)
源氏は亡き夕顔の娘、玉鬘(たまかずら)と出会う。玉鬘は夕顔と頭中将の娘であり、筑紫において、乳母に育てられていた。玉鬘は美貌で有名となっていった。
乳母は玉鬘を頭の中将にあわせてやりたいと思い、都に連れて行く。源氏はこのことをたまたま知り、玉鬘の美しさに惹かれる。玉鬘のことを頭の中将に知らせないまま、自身の子として引き取ることに決めた。
23帖 初音(はつね)
源氏は六条院にて、これまで関係を持ってきた女性を受け入れるという計画を実行した。いまや六条院には、紫の上や末摘花、花散里、明石の上、その娘の明石の姫君、そして新たな玉鬘が住んでいる。
さらに、出家した空蝉もまた、そこにともに住んでいる。正月には、源氏は満たされた心で彼女たちのもとに挨拶にまわる。
24帖 胡蝶(こちょう)
春になり、源氏は舟遊びをする。それに参加していた玉鬘の美貌が世間で評判となる。多くの男性が求愛するようになった。源氏は玉鬘にふさわしい男性を選定し始める。
だが同時に、源氏もまた玉鬘の美しさに惹かれていき、その思いを玉鬘に打ち明けた。玉鬘は思いがけず源氏から愛の告白を受けて、動揺した。とはいえ、源氏は若い頃の女性問題の失敗に学び、玉鬘との関係を深めぬよう自制した。
25帖 蛍(ほたる)
他方で、源氏は玉鬘のための品定めを進め、弟の兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)を選んだ。二人の仲を進展させようとする。
ある日、兵部卿宮が玉鬘を訪ねた。夜、源氏はそこに蛍を放つ。蛍の幻想的な光に玉鬘の顔が照らされる。兵部卿宮は玉鬘の美貌を見て、玉鬘への慕情を一層強める。
26帖 常夏(とこなつ)
他方で、頭中将は冷泉帝の后探しを進める。雲居雁とは別に、自身の娘を推薦できないものかと考える。
頭中将はかつて夕顔との間にできた娘を探そうとする。すなわち、これは玉鬘であるが、頭中将はまだそのことを知らない。玉鬘を源氏の娘だと思っており、その評判が高いことをうらやむ。
頭中将はほかの自身の娘をも探す。ようやく、近江の君が見つかった。だが、近江の君は宮廷生活に似合わない田舎じみた娘であり、作法もみにつけていなかった。頭中将はますます玉鬘がうらやましくなる。
27帖 篝火(かがりび)
近江の君は宮中で田舎者だとして笑いものにされる。頭中将はてんやわんやである。源氏はそれをあわれに思う。玉鬘は源氏のもとに引き取られてよかったとおもう。
28帖 野分(のわき)
秋になり、夕霧は源氏を訪れる。紫の上を一目みて、その優美な美しさに心のざわめきを感じる。
さらに、夕霧は源氏と玉鬘とのやり取りも見て、二人の親子とはいいがたいような親密な雰囲気に気づく。源氏が玉鬘に思いを打ち明けていたことを知らなかったが、両者のふつうではない関係に気づく。
29帖 行幸(みゆき)
ある日、冷泉帝が行幸を行った。玉鬘はその見物にでかけ、冷泉帝に好意を抱いた。そのため、源氏は玉鬘を冷泉帝の后にしようと思い立つ。
そのためには、まず、玉鬘の裳着(もぎ)の儀式を行う必要があった。しかも、ただ儀式を行うだけでなく、天皇の后にふさわしい壮麗な儀式を行う必要があった。そこで、源氏は実の父たる頭中将の強力を求めることにした。
ここにきてようやく、源氏は玉鬘が頭中将と夕顔の娘だということを頭中将に打ち明けた。そのうえで、頭中将に裳着の後見人を依頼した。
頭中将はこれまで、冷泉帝の后をめぐる争いで源氏と競い合っていた。絵合以降にこれで源氏に敗北していた。近江の君についてもうまくいかず、夕顔との娘(玉鬘)を見つけることもできず、源氏の娘とおもっていた玉鬘の名評をうらやんでいた。
そのような中で、頭中将はあの玉鬘が夕顔との娘であると知り、天皇の后に推挙されるために裳着が行われようとしており、その後見人をライヴァルの源氏から依頼されたのだった。
そのため、頭中将は感涙し、源氏に深く感謝を示した。二人の間柄はかつての親友の頃のように戻った。
30帖 藤袴(ふじばかま)
玉鬘は冷泉帝に仕えるために、宮中に入った。とはいえ、玉鬘への求婚の申し出は絶えなかった。
そのなかでも、髭黒の大将(ひげくろのたいしょう)が目立っていた。玉鬘は彼を好まなかった。彼はすでに妻子を持っており、しかもあまり大切にしていないようでもあった。当然ながら、源氏も彼の求婚には反対だった。
31帖 真木柱(まきばしら)
しかし、事態は源氏の望むようには進まなかった。髭黒の大将は豪快な人物だったが、むりやりに玉鬘を自分の妻にすることに成功した。彼の妻はこれに激怒し、娘をつれて実家に帰った。
玉鬘は冷泉帝の后になれず、宮廷から引き離されてしまった。望まぬ結婚生活で、めいった。髭黒の大将は仕方なく、玉鬘の宮仕えを認めた。
玉鬘は妻になった後も、宮廷では依然として耳目を集め続けた。髭黒の大将は心配でたまらなくなり、玉鬘を再び宮廷から引き戻した。それ以降、玉鬘は宮仕えしなくなった。髭黒の大将との間に多くの子供をもうけた。
32帖 梅枝(うめがえ)
その後、明石の姫君は春宮の后に選ばれた、そのために、玉鬘のときのように、裳着の壮麗な儀式が行われた。
他方で、源氏の息子の夕霧は頭中将の雲居雁を諦めていなかった。上述のように、二人の関係は頭中将によって引き裂かれていた。夕霧は出世して、この恋を成就させようと考えていた。だが、源氏は夕霧に、別の女性との縁談をすすめた。
33帖 藤裏葉(ふじのうらは)
頭中将は夕霧の縁談話を聞いて、焦りを感じる。かつて二人の恋仲を引き裂いたため、これまでは二人の関係を認めるのには消極的だった。
だが、頭中将自身と源氏との関係が玉鬘の裳着で修復されたこともあり、頭中将は夕霧と雲居雁の結婚を許すことにした。
他方で、明石の姫君が春宮の后になるべく、宮中に入ることになる。婚礼の儀式では、付き添いという主な役目がある。紫の上はこれを、実の母の明石の上に譲る。明石の上は紫の上に深く感謝する。
このようにして、源氏が面倒を見てきた子女は巣立っていった。源氏は父としても安泰だった。
34帖 若菜・上(わかな じょう)
だが、事態は大きく変化していく。先帝の朱雀院は病が進み、出家を望んでいた。そのためには、まず娘の女三宮(おんなさんのみや)の結婚を決めてしまいたかった。相手選びに悩んだあげく、源氏に正妻とするよう打診した。
源氏はすでに40代に入っており、女三宮は20代に入ったばかりであった。源氏は当初この依頼を断った。だが、女三宮が藤壺の姪であることやかつての天皇の娘であることなどにより、源氏は結局承諾した。
紫の上は正妻の地位を失った。自身の子供もいなかったので、心労を重ねていく。
ある日、源氏は自邸で蹴鞠(けまり)を催した。頭中将の息子の柏木(かしわぎ)がこれに参加した。女三宮の部屋の前に来た時に、偶然、猫が部屋の御簾を引き上げた。柏木は女三宮の姿をみて、心惹かれた。これが始まりだった。
35帖 若菜・下(わかな げ)
柏木はすでに結婚していた。だが、女三宮のことが忘れられず、恋文を送るようになる。
他方で、紫の上は女三宮に正妻の地位を奪われたことなどの心労がたまり、ついに病に倒れてしまう。女三宮の未熟さなどがかえって、紫の上への源氏の思いを強くした。源氏は家を留守にして、紫の上の看病に徹する。
その留守中、柏木がついに女三宮を訪ね、関係をもつ。女三宮は柏木の子を懐妊する。
源氏は女三宮の解任に疑念を抱く。柏木の恋文が見つかり、事情を理解する。これは、かつて自分自身が藤壺と犯した不義の因果だと感じる。柏木は不義がばれたことを知り、非常に動揺する。思い悩んだ挙げ句、病に倒れる。
36帖 柏木(かしわぎ)
女三宮は男の子の薫(かおる)を出産した。源氏にではなく、柏木にそっくりの子であった。女三宮は苦しみ、その後、出家した。
柏木の病はますます重くなっていく。夕霧は柏木と友人であったため、柏木を見舞いにやってくる。夕霧は柏木の不義を知らない。
柏木は死が近いと悟り、夕霧に妻の面倒を頼む。源氏への不義をほのめかしたまま、没する。
37帖 横笛(よこぶえ)
一年が経つ。柏木の一周忌が催され、哀悼の意が示される。
夕霧は柏木の妻だった落葉の君を見舞いに訪ねる。また、夕霧は源氏に、柏木の不義について尋ねるが、要領を得なかった。
38帖 鈴虫(すずむし)
秋になり、冷泉院が月見の宴を催す。源氏らもこれに参加し、風流な時を過ごす。
次の日、源氏は梅坪の女御を訪ねる。彼女は絵合により、冷泉院の第一の后になっていた。彼女は源氏に対し、出家を望むようになった胸中を吐露する。
源氏もまた人生の秋にさしかかっていた。当時の多くの人たちと同様、出家が脳裏をかすめるようになっていた。
39帖 夕霧(ゆうぎり)
他方で、夕霧は柏木の妻だった落葉の君を訪ねる日々が続いた。柏木の遺言によって落葉の君の面倒を見るということ以上に、彼女に思慕の情を抱くようになった。ついに、その胸中を落葉の君に明かした。だが、落葉の君はこれに応じなかった。
その頃、落葉の君の母が没した。落葉の君は出家を考えるようになる。だが、夕霧は落葉の君を諦められない。夕霧の妻の雲居雁はこれに激怒し、実家に戻ってしまった。
40帖 御法(みのり)
源氏の看病にもかかわらず、紫の上の病は改善しなかった。紫の上は出家を望むようになった。だが、源氏は紫の上が離れてしまうのを受け入れられず、出家を許可しなかった。
紫の上はいよいよ容態が悪くなってきた。死を覚悟し、備え始める。
ある秋の日、紫の上は源氏らに見守られながら、ついに息を引き取った。源氏は悲嘆にくれた。涙に濡れる日々をおくった。頭中将らが紫の上に最後の別れをつげた。
41帖 幻(まぼろし)
源氏は紫の上との、ありし日の幸せな日々の思い出にふけった。死の悲しみを乗り越えられず、悲嘆の日々をおくった。
しかし、紫の上の一周忌が迫ってきた頃、源氏はついに出家を決意する。紫の上がかつて源氏に送った大切な手紙を焚き上げて、この世の未練を捨て去ろうとする。
なお、源氏の死については直接描かれていない。『雲隠』(くもがくれ)という章段が存在するが、その中身は残っていない。
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おすすめ参考文献
小澤洋子『『源氏物語』忘れ得ぬ初恋と懸隔の恋 : 朝顔の姫君と夕顔の女君』新典社, 2020
上原作和編『紫の上』勉誠出版, 2005
秋山虔監『柏木 : 恋に惑溺した男、そのなれの果て』朝日新聞出版, 2012