エドガー・ドガ:色彩の結婚と不倫

 エドガー・ドガはフランスの画家や彫刻家(1834ー1917)。モネなどとともに、印象派の代表者として知られる。バロック美術の影響を受け、フランス新古典主義のドミニク・アングルに師事した。代表作には、バレリーナを描いた作品がある。彫刻作品も制作した。晩年は失明し、それに打ち込んだ。以下、それらの作品の画像を掲載しながら説明する。

ドガ(Edgar Degas)の生涯

 エドガー・ドガは銀行家の一家に生まれた。当初は銀行家の跡取りになるべく、パリ大学で法律を学んだ。古典の教養にも関心をもち、親しんだ。同時に、美術にも強い関心を示していた。ルーブル美術館に通っては、ドイツのデューラー、オランダのレンブランド、イタリアのヴェロネーゼらの絵画から影響を受けた。

 ドミニク・アングルの影響

 1855年、ドガはついに法律の勉強をやめ、ドミニク・アングルの弟子の美術学校に通い始めた。ドガ自身もフランス新古典主義の画家アングルの美術に学んだ。父のコネクションなどを利用して、アングルに直接会うこともできた。

 しかも、ドガはアングルからデッサンなどの指南を仰ぐことができた。同時に、ドガはロマン主義のドラクロワの絵画にも影響を受けた。

 20代前半に、父の生誕地のイタリアに旅行した。イタリアの古典的美術に直接触れることができた。古典美術への愛好が強まり、歴史画に挑戦した。

 印象派としての成長

 だが、古典主義や歴史へのドガの関心は次第に後景に退く。きっかけは、1870年代に入って、マネなどと出会ったことだ。風刺画家として有名なドーミエの絵画にも影響を受けたことも挙げられる。さらに、日本の浮世絵から新たな刺激を受けたこともそうだ。ドガの関心は現代の生にうつっていく。

 1874年、モネが中心となって、印象派は第一回の個展を開いた。ドガもまたこれに積極的に参加した。1886年までに開催された印象派の個展において、ドガは1882年以外の回にすべて出品した。

 絵のモチーフとしては、1870年代はバレエの踊り子が主だった。これはドガの全作品の半数を占めることになる。この頃、著名な文学者のゾラと交流をもったことも知られている。

『ダンス教室』

ドガのダンス教室 利用条件はウェブサイトで確認

 彫刻やパステル画

 1880年代から、主なモチーフは浴女に移っていった。女性の裸婦を描いたパステル画のシリーズが有名である。彫刻作品も制作した。

浴女のパステル画

スペインの踊り子の彫刻

印象派は美術批評家たちの厳しい批判を受け、苦戦していた。だが、ドガの作品は高額で売れるなど、比較的早く一定の成功を収めた。ドガは色彩の結婚そして不倫に精通した画家として成熟した。

 晩年の失明

 90年代に入ると、ドガは深刻な失明に悩まされるようになった。絵画はもはや描けなくなった。そのかわりに、手探りで彫刻作品をつくるようになった。

 ドガの特徴:その評価

 ドガの絵画は上述のゾラによってすでに批評されていた。1876年には、ゾラは構図に対するドガのあくなき探究心などに着目して、ドガを「科学的精神」の持ち主だとと評した。
 印象派が感覚的な即時性を称賛したのとは対照的に、ドガの絵画は強烈な内省の産物であり、よく練り上げられた絵画的パズルのようなものだと評された。
 ドガは模写やトレースに傾倒し、技術面での実験を繰り返し、主題を手直しし、構図の問題を考え抜いた。このようなこだわりの強い画家であり、意識過剰で几帳面、ひいては気難しい画家だと考えられてきた。実際に、ドが自身は絵画制作において入念な計画の重要性を強調していた。
 ドガの厳格な構図を追求する姿勢はイギリスでの成功につながった。また、ほかの印象派の画家が厳しい批判を受けている時期にも、ドガはそれを免れることができた理由でもあった。
 ドガの絵画的思考の特徴としては、「落ち着きのない」発明と粘り強い自己反省が結びついたものとして認識されている。
 このようにドガの高い評価を紹介してきたが、ドガは厳しい批判の目を向けられることもある。特に、ドガが多く描いてきた女性の身体にかんして、ジェンダーの視点で批判を受けてきた。ドガは売春婦や女性の入浴客などを多く描いた。

 ドガの作品を通して、ドガは覗き見主義や女性への搾取などがあると批判されてきた。また、ドガが女性嫌悪をも表明しているかどうかも論点となってきた。もっとも、ドガの女性の絵画は多数あるので、すべてにおいてドガが同一の考えやアプローチをとったとはいいがたいだろう。

エドガー・ドガの自画像

エドガー・ドガ 利用条件はウェブサイトにて

 ドガと縁のある人物

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 ドガの代表的な作品

『オルレアン市の災禍』(1865)
『アブサン』 (1876)
『プリマ・バレリーナ』 (1876)
『たらい』 (1886)

おすすめ参考文献

キース・ロバーツ『ドガ』村田宏訳, 西村書店, 1999

ポーラ美術館学芸部編『ドガ、ダリ、シャガールのバレエ : 美術の身体表現』ポーラ美術館, 200


Bernd Growe, Edgar Degas, 1834-1917 : on the dance floor of modernity, Taschen, 2017

Kathryn Brown(ed.), Perspectives on Degas, Routledge, 2018

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